可愛い姫に誘惑されて困っています。 ……と、見せかけて本当はサイコーに幸せ。

６８

　【創ｓｉｄｅ】

　礼奈の入学式に参列した俺は、講堂に入る前に渡り廊下で礼奈に何やら耳打ちする桐生に苛立ちを覚えた。

　厳粛な入学式が執り行われる中、俺の視線は桐生と礼奈に釘付けだ。

「創、もうそろそろ大学に行こうぜ」

「おう」

　敏樹と一緒に講堂を出て、俺達は法凛大学に向かう。悶々とした気分のまま講義を受けていると、携帯電話がバイブ音を鳴らした。

　ＬＩＮＥは礼奈からだったが、その一文に首を傾げる。

【創ちゃん、今日はありがとう。桐生君と】

「なんだよこれ？　どういう意味？」

「どうした創？　なになに、これって……本当は付き合ってるって意味じゃね？」

「はぁ！？　マジで！」

　思わず立ち上がった俺は、教授から授業妨害だと怒鳴られる。

「……すみません」

　教授に謝罪し、すごすごと席に着いた。

【創ちゃん、今日はありがとう。桐生君と】本当は付き合っています。

【創ちゃん、今日はありがとう。桐生君と】本当はラブラブなの。

【創ちゃん、今日はありがとう。桐生君と】付き合うから、別れて。

　ぐあああー……。

　妄想が次から次へと頭を過り、もはや講義どころではない。

　俺はＬＩＮＥの返事を打つ。

【礼奈、大切な話がある。夕方礼奈の家に行くから。】

　もしも本当に別れて欲しいと言われたら、俺はどうすればいいんだ。

　ガックリと項垂れた俺の隣で、シスコンの敏樹が新たな敵を見つけ、ポキポキと指を鳴らした。

　講義を終えた俺は、夕方敏樹と一緒に礼奈の家に向かった。

　礼奈はもう帰宅していて私服だった。Ｖネックのボーダーシャツと黒のチュールスカート。太ももがチラチラし、思わず目のやり場に困る。

「礼奈、あのＬＩＮＥはどういう意味なんだ。本当は桐生と付き合ってんだろ。兄ちゃんはわかってるよ。創と別れたいんだよな？　いっそのこと両方と別れちまえ」

　俺より先に敏樹が口を開いた。

　しかも、桐生と交際している前提だ。

「敏樹、お前はハウス！　部屋に行ってろ。これは俺と礼奈の問題だ」

「ハウスだと！　俺は犬じゃねえ！」

　敏樹は『う゛ーう゛ー』吠えてる、本当に煩い犬だ。

「頼むから二人にしてくれないか」

「二人きりになって、変なことすんなよ！」

　アホか、礼奈のＬＩＮＥの続きが気になって、俺はそれどころじゃない。