55

 【創side】


 夕方、礼奈の様子が気になり、俺は礼奈の家に立ち寄る。体調不良で惨敗し落ち込んでいるに違いない。


「礼奈、体調は大丈夫か? 試験のことは気にするな。まだ公立もある」


 俺は落ち込んでいるはずの礼奈を励ます。


「集中力は若干鈍ってたけど、創ちゃんのシャーペンのお陰で頑張れた」


「そっか、体調悪いのによく頑張ったな。いい子、いい子。どんな結果が出ても落ち込まなくていいからな」


「落ち込まないよ。創ちゃん、頑張ったご褒美ちょうだい」


「ご褒美? それは合格してから」


「意地悪だな。ギュッてしてくれたら、高熱も吹き飛ぶ」


「ハグ? それくらいなら……。わかった」


 俺は礼奈の体を両手で抱きしめる。

 高熱のせいか、体は湯たんぽみたいに温かい。


「今日フローラ大学附属高校に行って驚いたの。保健室受験って、意外といるんだね。インフルエンザの人が四人もいたよ」


「今インフルエンザ流行ってるからな。みんなしんどかっただろうな」


「それでね、桐生君もインフルエンザだったんだよ」


「桐生?」


 桐生って、誰だっけ?


「ほら、原宿で会ったでしょう」


「あいつかっ!? あいつがフローラ大学附属高校を受験したのか? マジかよ、何で受験するんだよ。もしかして、礼奈の志望校だから受験したのか? そうだよ、そうに決まってる。あいつはストーカーだ」


「どうしてそうなるかな。フローラ大学附属高校は文武両道、バスケの強豪校でもあるんだよ。桐生君はバスケ部のエースなんだから」


「あいつがフローラ大学附属高校に進学するなら、礼奈は公立にするべきだ」


「は? 意味わかんない。礼奈の第一志望はフローラ大学附属高校だからね。変なこと言わないで。それより、創ちゃん面接の練習して。創ちゃんが面接官ね」


 礼奈は俺と向かい合って座る。


「俺が面接官? いいよ。じゃあ始めるよ。南さん、桐生君をどう思ってますか?」


「それ、受験に関係ないし」


 礼奈は口を尖らせ俺を見上げた。

 俺は礼奈の額にチューッとキスをする。


「ご褒美くれたの?」


 ご褒美?

 これは単なるヤキモチです。


 礼奈の脳内から桐生を吸い出し抹殺するためのチューチュー必殺技だ。


「うふふ、礼奈、明日頑張っちゃう」


 ヤバい。フローラ大学附属高校より公立高校に進学して欲しいのに。


 桐生を吸い出すどころか、愛のパワーを注入してしまったようだ。


「我が校を受験した志望理由は?」


「はい、都内の制服人気ランキングで堂々一位に輝いた可愛い制服と、自由でゆるゆるな校風に憧れて志望しました」


 なんとお粗末な志望理由だ。

 礼奈がここまでおバカキャラだったとは。

 だが、これでヨシとしよう。


 なんとしても、桐生と同じ高校になることだけは阻止するのだ。これで不合格になったとしても致し方ない。


「サイコーの志望理由だ」


「やったぁ!」


 ……そんな、わけない。

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