第14話 ハヤタ社会的暗殺計画?

 清掃活動を始めて数日後。


 ある程度時間が経ったお陰か、地面に落とす輩もいなくなった。


 まだ多くの視線には晒されているものの、以前とは違い蔑むような目は少なくなってきている。


 これも続けてきた成果だと言えよう。ランも、アコも、桜も文句も言わず淡々とゴミを拾い続けていた。


「じゃんけん、ポイ!」


 定例のじゃんけん。俺と桜がパー、ランとアコがグーで負け、ゴミを焼却所へ持っていく事に。


「にしても、地球人も面白い方法で決めたりするのね」


「手で出来るっていうのは、分かりやすくていいですね。セキス星のもこんな遊びながら決めるような手法はありませんでした」


 そう感心しながら、ゴミ袋を焼却炉へ持っていく二人。


 取り残された俺たちは、芝生に腰を下ろして、戻ってくるのを待つ。


「にしても、今日はいい天気だな……」


 綺麗な夕焼け空。空気が澄んでいるせいか、飛んでいる鳥さえよく見える。


 だが、突然――その空に何故か黙々と煙が上がっていく。


「なんだ、野焼きでもしてるのかって――桜っ?!」


 横を見ると桜が目を回しながら、頭から煙を出しており……。


「あばばばば……」


「ど、どうした!? 大丈夫か、故障か!?」


「ち、違う……。今朝、アコのゼンマイの巻きが甘かったせいか動力切れ……」


「ど、どうすればいいんだ!? アコを呼んでくればいいのか?」


「だ、大丈夫。今すぐに……ぜ、ゼンマイをまままマイテホシイ……」


 あたふたしている間にも、もくもくと煙が大きくなっていく。


 このままじゃ人目に持つし、どうにかしなければ!


「ぜ、ゼンマイを巻けばいいんだな、とりあえず――」


 桜を持ち上げ校舎に入り、空いている空き教室に飛び込む。


 機械の身体なので、重量があるのかと思ったが、案外彼女は軽かった。


「……ふ、服を脱がしてほしい」


「な、何言ってるんだよお前! こんな緊急事態に!」


「ち、違う。脱がないとゼンマイが巻けない……」


 こいつは一体どんな設計で作られてるんだか……。


 だ、だが、回さなければこの状況をどうにかできない。


「こ、これは仕方ない事なんだからな!」


 自分に言い聞かせるようにゆっくりと桜の制服に手を伸ばす。どうやら制服は特注になっているらしく、ゼンマイ部分に器用に穴が開き、しっかりと固定されていた。


「は、早く……」


 そ、そんな事言っても女子の服なんて脱がした事もないし……。


 手に異常な程汗が吹き出し、それが更に思考を混乱させる。


「や、やっぱり上は自分で脱いでくれ! 俺には無理だ……」


 童貞にはこの状況はあまりにも酷すぎる……。


「わ、分かった……」


 背中を向け、ゆっくりと服を降ろしていく。


 その背中は機械とは思えない色白で、可愛らしいエメラルドブルーのブラジャーが現れる。正面の果実が見えない事が唯一の救いで、本物の女の子にしか見えない。


「うぅ……」


 ぐったりとうなだれる桜。どうやら本当に限界が近いらしい。


 覚悟を決めゆっくりと唾を飲み込み、ゼンマイに触れ――。


「じゃ、じゃあ回すぞ……」


「お、お願い……」


 ゆっくりとゼンマイを回していく。


 見かけによらずブリキのおもちゃの様な感触で、さほど力を入れなくても簡単に回った。


「あっ、ああ、ああっん、ああっああっっつん……」


「へ、変な声出すなよ」


「しっ、仕方ないっん……、これをする時あんっ……、いつもこうなぅん……!」


 普段無表情なのにも関わらず、こんな時だけ頬を赤らめ嬌声を上げるのは本当にやめてほしい。劣情を煽るものがあり、何かに目覚めてしまいそうだ。


「あぁもう!!」


 煩悩を打ち消すように全力でゼンマイを回す。


 それは当然、回されている本人が一番反応する訳で……。


「ああ、はげっしいよぉ……、そんなっ、むり、やりっ、あああぁああん!」


 教室に響き渡るいつもと違う桜の声。


 ダメだ……もう早く終わらせよう!


 限界まで速度を上げ、ゼンマイが止まる所を目指す。


「もうっ……、くる、くる、くる、くるからっ、あ、あぁああああああんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!」


 ゼンマイが止まり、絶頂を迎えたような艶めかしい声を出して、その一瞬エビぞりになる桜。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……隼大激しい……」


「そ、その言い方はやめろ語弊を生むから……」


 背中にぐったりと汗をかいているのだが……本当にロボットなんだよな?


 とりあえずなんかもう疲れた。なんで俺はこんな事をしているんだろう。


「は、早く服を着てくれ……こんな所を誰かに見られたら――」


 その瞬間、教室のドアが開き――。


「えっ――」


「隼大君……?」


 そこに現れたのが一般学生や教員だったら、まだ良かった……いや良くはないが不幸中の不幸だったかもしれない。


 ただ……今の状況は不幸中の大不幸。


 だって、そこにいたのは俺の数少ない友達である細田星七だったのだから。


「何……やってるの?」


 一瞬真顔だった星七は、この状況を見てあからさまに嫌悪を顔に出す。


 当たり前だ、目の前には友達と、そして上半身(下着)裸の星人が誰もいない放課後の教室でやましい行為(してないけど)に浸っていたのだから……。


「いや、違うんだ星七!」


「何が違うの? 最近うちに来ないし、星人との変な噂ばっかり聞くから嘘だとは思ってたけどまさかこんな所で、その……そういう事してたなんて」


「おっ、おい! 桜お前からも何か言ってくれ! ちゃんと誤解だって!」


「……隼大……あれだけ激しくウチの事をかき回したのにひどい!」


 いや、かき回したけど! 

 それと普段無表情なのにこんな時に限って、頬を赤らめて涙を溜めるのはやめろ!


「やっぱり、そういう事してたんだ」


「ち、違う、これは――」


「隼大君なんか知らない、バカ! エッチ!」


 そう言って、星七はその場から走り去ってしまう。背中を追う為廊下に出るも、彼女の姿はもう見えなくなっていた。


「ま、マジかよ……」


 俺は今日数少ない人間の友達を失ったのかもしれない。


 そう、後ろで平然と服を着ているゼンマイ星人のせいで……。


「お前、なんであんな事言ったんだよ……」


「ライバルは少しでも減らしたほうがいい。これは、ランとアコの為」


 何のライバルだよ……、と突っ込みたかったがやめた。もうこれ以上相手にすると、こちらまでショートしてしまいそうだ。


「大丈夫……だよな」


 星七の事だから言いふらすような事はない……とも言えないか。


 今はただ彼女が黙っていてくれることをただ祈るだけだ。

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