奏でられるメロディー

メトロノーム

奏でられるメロディー

この街を歩いていると、ふと聞こえてきたメロディー。

懐かしくも聞き覚えのあるこのメロディーは、いつも君が口ずさんでいたものだ。


こんな時にも俺の耳を占領してきて、その凄さに思わず苦笑いを浮かべしまう。

あの頃のことを思い出してしまうから。そう、無意識に。


俺も好きだったこのメロディー。でも、今は苦しくなってしまう。

耳に入る度に胸が苦しくなって、悲しくなるんだ。

だって君はもう...


「好きだよ」と、そう伝えられたなら。俺達の関係は変わっていただろうか。

そう聞いても、返事は返ってこない。


今の君は何をしている?

今の君は何をやっている?

答えのない問いを繰り返す俺は、何も変われていない。


だからかな。

澄み切った空なのに、全てが色褪せて見えるのは。

もう二度戻ることのない色は、もう二度交わることのない俺達の関係を表していたんだ。


聞こえていたメロディーが、ふと聞こえなくなった。

無情にも聞こえなくなったメロディーは、君が隣にいないことを告げていた。


こんな時さえ俺の耳は、君の口ずさむメロディーが聴きたくなって、少しだけ顔を歪ませた。

あの頃を思い出しながら。そう、あのメロディーとともに。


君が好きだったあのメロディー、昔は楽しかった思い出だから。

耳に入る度に胸を掴んで離さないんだ。

だから俺はもう...


「愛してる」と、そう伝えられたなら。俺達の関係は変わっていただろうか。

そう呟いても言葉は返ってこない。


今の俺は何をしている?

今の俺は何をやっている?

答えがない問いだけど、君は何も変わっていない。


だからかな。

透き通った音なのに、全てが濁って聴こえるのは。

もう二度と戻ることのない音は、もう二度すれ違うことのない俺達の関係を示していたんだ。


「ありがとう」と、そう伝えられたなら。

「さようなら」と、そう伝えられたなら。

俺と君は変われていたんだろうか。


何も変わらないあの頃と同じメロディーは、俺達とともに時を刻み続けていて。

それすら辛くて、それすら切なくて。でも、嬉しくて。


俺達が変わろうとする中、君が好きだったメロディーは変わろうとせず、変わることなく音を奏でる。

そのメロディーだけが俺を導いてくれるんだ。

全てを失った俺を...


でも、それでもいい。

俺の胸の中には見えて、聴こえているから。

あの時の色も、音も、全て。


奏でられるメロディーは、何も変わらない。ただ一つ、そこにあるものだから。

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