今日も助下荘は平和です!

タキ

第1話 今日は助下荘に来ました!

今日は4月5日、明日に入学式を控える俺にとって、今日は少しばかり大きな1日になりそうだ。


親は海外へ転勤することになり、俺は今日から食事付き、さらに、これから通う高校から徒歩15分というかなりいい感じの下宿先「助下荘じょしだそう」で一人暮らしをすることになった。


中学生の時は少し調子に乗ってしまったため、この高校では大人しく平和に過ごしたいと思っている。


お金のことは親が全て払ってくれるという話なので、そこに心配はない。さらに、自由に使える金として毎月1万円振り込んでくれることになってる。


中学生の頃、毎月3千円のお小遣いだった俺からすれば、シンプルにお小遣いが約3倍。普通に嬉しい以外の言葉が出ない。


俺はボストンバッグを肩にかけ、キャリーバッグを転がし歩く。


地図を見ながら歩く。駅を出てから十分ほど歩いただろうか。道が全くわからないまま駅周辺で時が過ぎていく。


管理人さんには「お昼ぐらいまでには来ておいて欲しいです」と言われたらしい。


この下宿先を決めたのも母親なので、俺はほとんど聞かされていない。


母親情報では、可愛い子がいたらしい。よくやった母親、感謝するぞ。


それにしてもわからない……。もう11時になるころだ。仕方がない。コミュ障の俺だけど、頑張るとするか。


ちょうど俺の前に黒髪ロングの女性が通った。


やばい……。めっちゃ可愛い。


俺の体は無意識にとその女性の方に向かっていった。


「あ、あの、ちょっとお時間いいですか?ちょっと道に迷ってしまって……」


「あ、はい!っ、え……、あ、すいません……」


彼女は俺が質問した後、とても可愛らしい笑顔でこちらを向いてくれた。やったー!めっちゃ優しい人じゃん!って思った。だが!俺の顔を見た瞬間、とても嫌そうな顔をされ、駅の方へ逃げていった。


え?普通そんなに嫌な顔する?!


流石にとっても嫌いな人だったりしたわかるんだけど、俺たち……初対面だよね?!


なに、一目見たらその人が自分に合う人か合わない人かが分かる的な?俺ふつうに悲しいんですけど……。


リアルにハイパーコミュ障になってしまいそう。


も、もしかして、この街ってこんな人たちばっかりなの?俺、これからちゃんと生きていけるかなぁ。


少し人のいるところから離れたいな……。


俺は駅から離れるため、ふらふらと適当に歩く。


「大丈夫ですか?何かお困りですか?」


「え……」


誰かに声をかけられたので、俺はその人の方を向いた。


そこには、金髪ポニーテールの女性がいた。


よかったあ。この街にもちゃんと優しい人がいた。ってか、この人可愛い過ぎでしょ!


「あ、いや、何かお困りなのかと思いまして」


女神だ!この人はもう全てが完璧。さっきの人みたいに顔だけの人はダメだ。俺もう少しでトラウマになっちゃってたよ。


「あ、その、ちょっと道に迷ってまして……、助下荘と言う場所なんですが……」


俺は紙に書いてある助下荘の住所を見せる。


「ああ、はい、案内しますよ。ここからちょっと歩けば着きますから」


「ほ、ほんとですか!ありがとうございます!」


彼女は「どういたしまして」と言って歩き出した。俺はその横を歩く。


横から見てもめちゃくちゃ可愛いし、本当に女神様かと思ってしまう。


歩いている間、沈黙はまずいと思ったのか、彼女は話しかけてくれた。


「君、名前なんていうの?」


「あ、はい、小宮城こみやぎ 大空そらって言います」


「そっか、そらくんかー、私は近藤こんどう 美咲みさき、よろしくね!」


「は、はい!よろしくお願いします」


とっても優しく美人な近藤美咲さんは、その後も色々と話しかけてくれた。



歩いていた美咲さんは立ち止まり、ある建物を指さした。時計を見ると、駅を出発した時から20分ほど経っていた。


「助下荘はあそこだよ!」


どうやら助下荘にたどり着けたようだ。もうすぐでお昼、結構ギリギリだったな。


「本当にありがとうございました。正直、道を教えてもらってなかったら絶対ここまでたどり着けませんでした」


「全然、私ここに住んでて、今帰りだったから気にすることないよ」


こんな奇跡があるというのか。駅で助けてくれた女性と同じ下宿先……。母親が言ってた可愛い人っていうのは美咲さんのことだったのか。母親、よくぞやってくれた。このことばかりは感謝しかないな。


ダメだ!変に好きになったりしたらダメだ!また中学の時みたいになってしまう。


「そ、そうなんですか!あ、これからもどうぞよろしくお願いします」


ちゃんと同じ下宿先で住むことになる人なんだから、挨拶はしておかないとな。


「ん?ああ、またどこかで会ったりしたら、全然話しかけてくれていいからね。今、由美子さん呼んでくるね!」


あ、そっか、まだ俺と一緒に住むってことには気付いてなかったのか。


「由美子さんとは?」


「ああ、管理人さんね。そらくんもこっち来たら?多分管理人さんに話あるんでしょ?」


美咲さんはわざわざ管理人さんまで呼んでくれた。本当にこの人と会えてよかった。


「あ、はい、ではそうさせてもらいます。ほんとに色々とありがとうございます」


「ゆーみーこーさーん!由美子さんに尋ねてきた人いるよー!」


大声で叫んだ後、美咲さんはこっちを向いた。


「で、そらくんはここに何しにきたの?」


美咲さんは普通に気になった、って感じで聞いてきた。まあ、普通か。自分の下宿先に用がある人なんだから、気になるか。ここで黙っておくメリットもないし、改めてしっかりと挨拶しておかないとな。


「今日からここで下宿することになります。改めてこれからよろしくお願いします」


「えっ……」


ん?俺今なんか変なこと言ったか?これから下宿します。よろしく。だよね?おかしいところなんてどこにもないよね?だったら、どうして美咲さんはそんなに驚いているんだ?普通に考えたらわかりそうなものだけどな。


「あー、今行くー!その子多分これからここで一緒に暮らす子だと思うよー!たしか名前は……、こみやぎ……そら……ちゃんだったかな」


ちゃん?俺男だぞ?あ、もしかしたら、どんな人にもちゃん付けして呼ぶタイプの人なのかな。


美咲さんは管理人さんであろう人の言葉を聞いて改めてこっちを見る。


「ほんと……なの?」


俺は頷く。


いや、だからなんでそんなに驚いでるの?!理由を教えてくれよ!


「何かおかしいですか?」


半笑いの状態で聞いた。


しかし、この後の美咲さんの言葉を聞いて、俺の目は点になった。


「うん、おかしいと思うよ。だって、ここ、助下荘で暮らしてるのはみんな女の子だよ?」


「えっ……」


「えっ、知らなかったの?」


「はい……」


どういうことだ、俺以外全員女子?ダメだ……、全く理解が追いつかない。


そこに1人の女性がやってきた。普通に考えて管理人さんかな。


ちょっと今思ったこと言ってもいいですか?


おっぱいばかでけえ!


なんだここは、楽園か?


「あれ?あ、そらちゃんなのかと思ったら人違いだったのね。で、どうかなさいましたか?」


え、俺って今どういう状況なの?全然わからないんですけど。


「いや、僕が小宮城大空です……」


「え、うそ……、そらちゃんって男の子だったの?!」


え、俺女子だと思われてたってこと?まあ、たしかにそらって女の子っぽいけど。


「あ、あはははー、そらって読むからてっきり女の子のかなぁと思ってたよー」


「はあ?!」


おもわず声が出てしまった。でも、さすがに許されるよね?これは100%向こうが悪いよね?


「ど、どうしよっかー」


管理人さんは「やってしまったなー、まあ、ひとまずあがってよ」と言いながら笑っている。いや、笑い事じゃないから!



下宿先に着いて約10分。


ようやく助下荘に招かれたが、なんとなく感づく。


ものすごい場所で過ごすことになってしまった。


「高校では平和に過ごしたい」と思っていたのですが……、正直言って、平和に過ごせる気がしない。


ってか、もしかしたら、ここ追い出されるかもしれないピンチなんですけど!


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