まだ16歳ですけど、お嫁さんにしてくれますか?

雪瀬ひうろ

第1話「再会は春風と共に①」

「一緒のお布団で寝ましょう……」


 消え入りそうな声でそう呟いた少女は、潤んだ瞳で俺の方を見ている。彼女の頬は朱に染まっていた。

 俺は思わず、彼女の空気に呑まれてしまう。


「それは駄目だ……」


 そう口にしながらも、思わず想像してしまう。彼女と一つの布団に入るところを。

 薄手のワンピースは胸元の膨らみを浮き上がらせ、その裾の下では、たおやかな足がなまめかしく光る。


「でも……」


 少女の薄茶色の瞳は紛れもなく、俺を捉えている。その瞳に点る灯は、紛れもない熱情だ。


「俺たちは、あくまで『教師』と『生徒』なんだ」


 俺は彼女の熱にほだされぬように毅然とした態度で言う。

 だが、彼女はどこか蠱惑的な調子で呟く。


「確かに、私は『生徒』で、奏多さんは『教師』です……でも……それでも……一緒のお布団で寝るのが、駄目なんてことはあるはずがないです……」


 丁寧で控えめな言い回しをしながらも、その底流には有無を言わせない何かが確かにあって――


「だって、私たちは『夫婦』……なんですから……」


 俺は、そんな彼女をどうしようもなく――



 俺はそんな熱に浮かされながら、ここに至った経緯を思い返す。

 俺と「静井ひよ」の関係は如何にして始まったのか?

 それを語るためには、一体どこまで時を遡ればいいのだろう。それは一年や二年では効かない。それこそ、彼女が産まれた十六年前に立ち返る必要がある。

 だが、まずは彼女と再会を果たした今朝の出来事から語るべきだろう。

 ――あの桜の舞い散る暖かな春の日から。

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