ニックネーム、だと!?

「学籍番号『13-2-754』です……」


  どうやらみんなも気づいたようだな

  学籍番号が一番無難だということに

  さすがこの学園の生徒だ


  田中公平、お前の死は決して無駄ではなかったぞ


本名を知られてしまった田中くんは

彼の中では既に故人の扱いなのか。


「ニックネームは……」


  ニックネーム、だと!?


くれないと呼んでください」


  しかも、紅、だと!?


  なんということだ

  どうやら俺はこの試練を

  心の何処かでまだ甘くみていたようだ


  本名が明かせない以上、

  自分をどう呼んでもらうか

  確かにニックネームなり

  あだ名を提示する必要があるのかもしれない


  しかし、しかしだ

  それには限りなく

  本人の趣味思考が反映されてしまう

  明確な個人情報ではないが、

  パーソナルな情報が

  取得されてしまう可能性が否めない


  こいつの『紅』というのがいい例だ

  このワードから受ける印象としては

  厨二病、アニメや漫画好き

  もしくはヴィジュアルバンド好きという具合に

  ある程度趣味嗜好を限定出来る

  カッコイイので

  コードネームのノリでつけた可能性もあるか


まぁ実際に、クラスメイトも

そのネーミングセンスに若干引き気味、

もしくは失笑気味ではある。


中高校生特有の若気の至り、

黒歴史化待ったなし

一生思い出しては死にたくなるやつだ。


しかし、こういう類の本人が希望するあだ名は

本人の意志が尊重される訳ではないので、

この場合であれば

『クレちゃん』とか『ナイちゃん』とかに

略されるのがオチであろう。


  まさか自己紹介という罠が

  これほど極悪なものだったとは……


  内容の如何いかんによっては

  パーソナル情報を知られてしまうだけではなく

  失笑や嘲笑の対象となり

  後で陰口を叩かれたり

  いじめの原因となる可能性すら秘めているとは


まぁそれは、個人情報関係なく起こり得ることではある。


  最悪の場合は、黒歴史として

  一生心に深い傷を残すという……


  これはまるで二重三重に張り巡らされた

  用意周到な、緻密な罠ではないか

  どこに地雷があるのか分からない


  正解は一体どこにあると言うのだ……


-


「……中学では『ちゃんこ』と呼ばれてました」


次のちょっと太めの男子生徒はそう言った。


  なるほど、

  厨二路線が失笑を買ったため

  お笑い路線に逃げてみたということか


  しかも自らの体型をネタにして

  笑いを取りに来ている感もある


確かにそれなりにみな笑っている。


  しかし、あまりにも捨て身、あまりにも自虐、


  なぜ大勢の初対面の人間の前で

  彼はここまで自分を卑下しなくてはならない!?


  この溢れ出る、

  どうぞこんな自分を笑ってやってください感


  そこまでか? そこまでなのか?

  一体何がお前をそこまでさせるのだ!?


  自己紹介とはここまでも残酷なものなのか?

  ここまで自らを傷つけなくてはならない

  過酷な試練だとでも言うのか!


-


次はちょっと小柄な可愛い系女生徒。


「『ぴーちゃん』と呼んでください」


  あぁ、これは

  女子であれば

  ある意味正解と言っていいのかもしれない

  カッコイイ、お笑いと来て

  次は可愛い系で来た感は否めないが


  無難の中にも

  『ぱぴぷぺぽ』の魔力を駆使した

  いい采配と言ってもいいだろう


  女子であれば間違いなく

  『ぱぴぷぺぽ』の丸っこい見た目と

  発音した際の可愛い響きは魅力的過ぎて

  誰でも使いたくなるというものだろう


  さらに『ぱぴぷぺぽ』の中では『ぴー』が最良


  ぱーちゃん(アホの子っぽい)

  ぴーちゃん(鳥っぽいけど可)

  ぷーちゃん(黄色い熊っぽい)

  ぺーちゃん(ペイペイ言ってそう)

  ぽーちゃん(ぽーぽー言ってそう)


  やはりこの中ではぴーちゃんがいい

  次点でぺーちゃんというところか

  

  しかしぴーちゃんを狙っていた女子も多数いただろう

  いくら順番で早いもの勝ちとは言え、

  ぴーちゃんを狙っていた他の女子から

  彼女が顰蹙を買ったのは間違いない


  これが原因で彼女は女子の間でハブられ

  ぼっちになってしまうのも時間の問題だろう

  彼女には同情すらしてしまう


  女というのはネチネチとして陰湿で、

  本当に世にもおそろしい


あくまで、すべて彼の脳内妄想です。


それと自己紹介だけで

これだけいろいろ難癖をつけるお前は

ネチネチしていないのかと問い詰めたい。


「……えーと、趣味は」


  趣味、だと!?


  貴様、ぴーちゃんを選択するという

  名采配をしておきながら

  自らの趣味を暴露するなど

  そんな愚行を犯すというのか?


  趣味を暴露すれば

  同じ趣味を持った人間どもから

  こいつは使える奴だと認定されて

  一緒に集いなどに連れ回された挙句

  しつこく趣味の話を永遠とされてしまうんだぞ!


まぁ、世間一般ではそれを

普通に趣味友達と言うのだが。


いやむしろ、

自己紹介と言えば趣味の話だろと

ツッコミを入れたい。


そしてこいつは個人情報保護主義者以前に

ただの友達いない奴だろという気もする。





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