ゆめにっき

あまぎ(sab)

魔女の森①

 気づいたら森の中だった。

 ここは深い山の中腹のようで、森を無理やり切り開いて作った駐車場は周囲を高い木で囲まれて、さながら巨大な箱の底にいるようだった。頭上ではいつもより鮮やかで遠い青空が、暖かい光を溢しながらゆったりと雲を流している。ひび割れたコンクリートと白線の向こうに、今しがたやってきたであろう狭い山道が下界に向かって続いていた。

 自分(おそらく高校生くらいの制服を着た女の子)は、連れの男性の運転でここまでやってきたらしい。男性とは知り合ったばかりで、会った経緯は覚えてない。つい最近身寄りがなくなった自分に人を紹介してくれる、と言って車に乗せられ、ここへやってきたという事は覚えている。

 駐車場はがらんとしていて、森に近い脇には雑草が繁り、影が濃い場所のはキノコすら生えている。乗ってきた車の他に、黒っぽい普通車が一台。近くを通りすぎる時にちらっと覗くと車内は埃が積もっていた。

 その車の奥に、森へと続く道があった。この先に目的の人物がいるのか、自分は男性の後ろから続いて小さな山を登っていった。


 歩き始めてすぐはあまり傾斜のない、歪曲しているが簡単な道だった。舗装はされていないが、登山道のように不自然に草木が取り除かれた一本道がずっと続いている。

 入り口がまだ見えるくらいの場所で突然、男が立ち止まった。道のすぐ側の枝を指して、これは春に綺麗な(花か実)をつける木だと教えてくれた。もうしばらく歩くと、また男は側の木をみて、どの季節に咲くどんな木かを教えてくれた。


 それを何度も繰り返す内、道も険しさを増してくる。荒れて、人の気配のない道だが、一応木や草が避けられた立派な山道である。泥でぬかるんでいたり、砕けた丸太が転がっていたり、急な段差が連なっていたりする道を、段々と進んでいく。

 ふと男(このあたりで初老の男性であると気づく)が少し上を指差して、あそこが魔女の住む家だと言った。見上げると木々の間から建物の屋根が覗いていた。自分はここに住む薬草魔女に用があるらしい。


 家を目指して登っていくと、突然それは現れた。今までの曲がりくねった急勾配から一転して、十メートルほどの一本道があった。そしてどこぞのゲームでみたような気もする、毒毒しい紫色の触手が地面から生え並んでいた。茨といってもいい。今は微動だにせず複雑な形で石のように固まっているが、近寄った瞬間攻撃してくる、と何となく理解した。触手は道の中心より少し左に避けて、通ってみろといわんばかりに待っている。

 私が困っていると、男は「これは認識を上書きすれば消えるタイプの怪異だ」とそのような説明をしてすんなり通って見せた。自分もそれに習って目を閉じ、触手のない地面を想像しながら通り抜けた。


 家につくと、玄関の扉を開けた住人の女性と男が何か話をした。自分も扉ごしに挨拶したが、見た目は普通の人間の女性だった。

 女性は酷くめんどくさそうな顔で自分を見ると、男と一緒にもう一度駐車場から家へ歩いてくるよう言って、扉を閉めた。


 下っている途中で、拾った紙幣を読み上げているような、ゲームのテロップを読まれているような、不思議な文章を聞いた。

 若い青年の日記のようなもので、好きな植物のことや、通っている大学の友達のこと、日常の些細な感情など、たわいもない内容がチェックポイントのように歩くたび頭に響いてきた。

 森を抜ける手前、最初に説明をうけたナナカマドのような枝をみて、はっと気づいた。


__先ほどから聞こえてる日記の植物が、この山道にある植物と一致しているのだ。

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