勇者ドラフト会議
「只今より
第一回勇者ドラフト会議を
開催させていただきます」
大きな会場には幾つもの円卓が並べられており、
その周りには各異世界の代表が座していた。
一見すると
結婚式の披露宴会場のようにも見える。
円卓は一異世界につき一つ、
その周囲に座っているのは
その異世界の代表者達。
国王やら大賢者、大司祭など
各異世界から代表として
選ばれて来た者達が座っているのだ。
国が多過ぎて
諍いが絶えない世界などは、
代表を決めるのにも揉めたのであろう、
十名を超える者が無理矢理
ギュウギュウ詰めで座っている。
深刻な勇者不足、
これに業を煮やした各異世界は、
本来であれば間に入り
仲介やら斡旋を行う筈の
神々やその配下にある
転移・転生エージェント達を素っ飛ばして、
直接人間世界から勇者の人材を召喚、
青田刈りするようになっていた。
そこで各異世界間での
勇者となるべく人材の争奪戦が
エスカレート、熾烈なものとなり、
このままではいつ
異世界間戦争が起きても不思議ではない
そんなところまで事態は逼迫(ひっぱく)。
この事態を重く(おもしろおかしく)
受け止めた神々は、
急遽、勇者となる人材を対象とする
勇者ドラフト会議を開催することに決めた。
勇者ドラフト会議は
異世界の各所にネットワーク局を持つ
『テレビ異世界』が放映権を取得、
テレビ放映やネット配信などで
多数の異世界住民達が
注目する一大イベントとなる。
神々もその放映権料で
ウハウハということであろう。
-
各円卓では
それぞれの異世界の代表者達が
メモを見ながら必死で
誰を指名するか状況を確認している。
しばらくすると
希望する勇者候補の名前が書かれた紙が
各異世界の代表者の手により
投票箱へと入れられた。
投票箱から投票用紙を取り出し、
一枚一枚読み上げて行く
司会進行役のエージェント。
「エントリーナンバー9、
ファンタジー異世界」
参加している各異世界も
多過ぎるため
エントリー番号が振られている。
「第一回選択希望選手、
剣崎(けんざき)勇人(はやと)、
剣友学園三年」
「おおっ」
ドラフト一位に指名された
候補者の名前が挙がると
会場から歓声が漏れる。
「エントリーナンバー14、
ファンタジー異世界、
第一回選択希望選手
剣崎(けんざき)勇人(はやと)
剣友学園三年」
「おおっ」
今回のドラフトの目玉、
No.1 勇者候補の剣崎勇人が
早くも重複指名され
会場内はさらにどよめいた。
重複指名の場合は、
指名した異世界の代表者一名がくじを引き、
当たりくじを引いた異世界が
候補者との交渉権を得る。
後はその異世界と候補者との
契約交渉が行われるが、
大概の候補者は交渉権を持つ
異世界へと転移して行く。
今回ドラフトの目玉、
勇者候補の剣崎勇人は
結局九つの異世界から
重複指名を受け、
指名した異世界は
くじ引きをすることになった。
くじを引くために
前に出て来た各異世界の代表者達、
そのほとんどが司祭や神官達ばかり。
司祭や神官達は口々に
それぞれが信仰する神へ
祈りの言葉を捧げる、
まさに神頼みということか。
その肝心の神々は
このイベントの主催者で、
裏の楽屋でお茶を飲みながら
この様子を見ている訳なのだが。
本人に直接言いに行った方が
早いのではないだろうか。
隣に居るのにLINEで
会話しているようなものだ。
結局、勇者候補の剣崎勇人は
エントリーナンバー9の異世界、
その代表者である大司祭が引き当てる。
当たりくじを引いた大司祭は
天に向かって握り拳を高く突き上げ、
ガッツポーズを決めてみせた。
-
『テレビ異世界』の異世界中継が繋がっていて、
ドラフトの目玉、剣崎勇人にインタビューが行われる。
「いやぁ、
言葉に出来ないぐらい嬉しいです、
勇者になるのは、
自分の小さい頃からの夢でしたから」
大司祭もまた
一言コメントを求められた。
「これもまた神のお導きでしょう、
あなたに神のご加護があらんことを」
大司祭が信仰するその神当人は
裏の楽屋で仕出し弁当を食べていたが。
こうして勇者ドラフト会議はテレビ中継もあり
それなりに盛り上がって終わった。
-
後日『テレビ異世界』では
ドラフト一位指名を受けた
勇者候補者の近況が放送される。
「先日ドラフト一位指名を受け、
本日契約をかわした
剣崎勇人勇者候補が
早速トラックに轢かれる練習を
はじめたとのことです。
これにつきまして、
当たりくじを引き当てて
その際のガッツポーズが話題になりました大司祭は、
『安全面には充分に注意してトラックに轢かれ、
一日も早く勇者として転移して来て欲しい』
とコメントをしております。」
異世界恐怖通信 ウロノロムロ @yuminokidossun
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