限りなく永遠に近い命

そんな彼もついに

安住の地を得ることになる。


気づいた時には

鉱物らしき姿をしていた。


魂が俯瞰的に見た像を

彼はそう捉えたのだ。


手足も無く、動ける訳でもない、

ここ最近の人型の流れからすれば

むしろ退化しているのではないか、

彼はその時そう思ったが、

そういう訳ではなかった。


そのことを認識する為には、

彼が意識下の範囲を

広げられるようになる

必要があっただけなのだ。



意識出来る範囲を

広げられるようになって、

彼は自分が何であるかを

はじめて理解した。


『これ、山だ……』


鉱物はあくまで

この山を構成している

一端に過ぎず、

自らの全体を

意識出来るようになってみると

彼は山そのものであった。


スケールの大きな話ではあるが、

身動きが取れる訳ではなく

ここからどうすればよいのか、

彼はまたしばらく考え込む、

数十年レベルでじっとしたまま。



山となってしばらくすると、

山を構成している鉱物以外の物、

土や水や草木なども

自らの体の一部として

意識することが出来るようになる。


この時点ではじめて

彼は命を持つ生物を

自分の体の一部にしたのだった。


これまで彼が成った物は

すべて勇者でもあったので、

今度は彼は山の勇者

ということになるのか。


-


山である彼の体を

地元の人々が登り、

山菜採りや猟などを行う。


時には遭難する人間もおり、

自分の体の上で死なれるのは

何とも目覚めが悪いので、

どうにかして

助けることは出来ないか、

彼はそう考えた末に

山の形状を自在に変える能力が

使えるようになる。


山道に迷って

遭難しそうな人が出ると、

麓への一本道をつくり

分かりやすくアピールして

遭難しないように

速やかに帰ってもらう。


地元の人々は

これを神のお陰と感謝し、

彼はいつしか山神様として

扱われるようになっていた。



魔王の軍勢が

人間の街に向かって

侵攻を開始した際には、

身動きを取ることが

出来ない自分が

勇者として何か出来ないか

そう考えた彼は、

意識をさらに広げ

山である自らと繋がっている

大地を操作して

行軍の前に

巨大な山脈を出現させ、

魔王軍の侵攻を阻止した。



人間達の安全を考えるならば

やはり魔王は

倒しておかなければならず、

どうすればよいか

思案と模索を重ねた山の勇者は、

自分を構成する物質から

遠隔操出来る傀儡かいらいをつくり出す。


鉱物で構成された傀儡・金の勇者、

大地の土で構成された傀儡・土の勇者、

草木などの植物で構成された・木の勇者。


三人の勇者を自らの傀儡かいらい

この山の化身として派遣し、

ついには魔王を討ち果たす。


-


その後も山の勇者となった彼が

意識が届く範囲を

無限に広げ続けて行った結果、

いつしか彼は

この星そのものになっていた。


星の勇者なのかもしれない。


魔王を倒した後も

いつまでも転移をする気配がない、

おそらくはここが

彼の転移の旅、

その終着点ということだろう。


星の寿命は百億年とも言われ、

この星が既にどれぐらいの

寿命であるかは分からないが、

人間世界の地球と比べてみても

後五十億年ぐらいは寿命がある、

限りなく永遠に近い、

充分な時間。



もし例えば、

リッチでも誰でもいいのだが

誰かが本当に

永遠の命を得たとして、

この星そのものが

無くなってしまった場合、

その者達はどうなるのか?

何もない宇宙で

一人で生きて行くのか?


そう考えると

星の寿命というのが

最も永遠に近い命と

言ってもいい。


少なくとも

ここが終着点ということは、

神々が手の届く範囲での限界が

ここということなのだろう。



まさしく星になった男は

限りなく永遠に近い命を得て

これから五十億年もの間

何をして行くのだろうか。

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