第131話 星が生まれる

 エスペルは上空まで飛翔した。


 周囲を飛ぶ、赤い異形の新生セラフィムは、どんどんその数を増していた。崩壊したサタンから生成された砂つぶの数は膨大だった。それらすべてが卵になり、次々と孵化しているのだ。すべて孵化しきれば、とてつもない数になるだろう。


 さてどうやって、おびただしい数の新生セラフィム達を、殲滅するか。

 エスペルは、あの術しかないと思っていた。

 

 魂自壊セフィラ・カタストロフ

 かつてイヴァルトが行おうとしていたものだ。


 自らの魂構成子セフィラ一つを再生不能レベルに完全崩壊させることで莫大なエネルギーを生み出す術。


 半径数キロ範囲にあるもの全てが灰燼となるらしい。普通のセラフィムの魂構成子セフィラ一つで、そのレベル。

 果たして、「神の夫シシア」なる異形と化してしまった己の魂構成子セフィラならば、どれほどの威力があるのだろうか。

 あるいは大して変わらないのかもしれないが。

 まあエネルギーに不足があれば、新生セラフィムを殲滅するまで一つづつ、自らの魂構成子セフィラを壊していくだけだ。 

  

 エスペルは己の胸に手を当てた。

 自分自身のセフィロトに、耳をすまし、目をこらす。


 思えば敵のセフィロトばかり見つめて来た。攻撃でも受けない限り、自分のセフィロトを意識する事などなかった。


 なぜか十一個に増えてしまっている。苦笑しか出ない。だがこれのおかげで戦ってこれた。どんな異形に身を落とそうと、勝てればそれでいい。


 魂自壊セフィラ・カタストロフは、自殺とは違うのだろう。

 先ほど神は手から自分自身に思念波を放ち、自らの魂を崩壊させたが、それで莫大なエネルギーなど産まれなかった。


 おそらく、攻撃魔法を加えずに魂構成子セフィラを崩壊させねばならないのだ。


 とにかく、やってみる。


 思念の中で自らの魂構成子セフィラをじっと観察した。

 そしてそれが、崩壊することをイメージする。

 自らの魂構成子セフィラに亀裂が入り、亀裂が広がり、パリンと崩れ去るイメージ。


 エスペルの体が、青白く光り始めた。


 よし、とエスペルは手応えを得る。これでいいのだ。


 エスペルはイメージをより鮮明に脳内に描いた。

 

 壊れる。

 壊れる。

 魂構成子セフィラが、壊れる。


 壊 れ る。



 一瞬後、かつてこの地上で誰も見たことのないような大爆発が起きた。

 いやそれは、爆発というよりは星の誕生とでも言うべきものだった。


 王国をすっぽり覆う、超巨大な青い火の玉が出現した。

 青い火の玉は、その中のあらゆるものを瞬時に「蒸発」させた。

 

 森も、石造りの建物も、セラフィムも。

 全てのものが文字通り、「無」に帰した。


 遠く離れた国々からも確認できたその巨大な輝きは、後に「地上に青い太陽が生まれた」との表現で、語り継がれることになる。


 伝説として。あるいは、神話として。

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