第130話 星へ還る

 宮殿から地上に落下し倒れていたルシフェルの体は、セラフィム兵達に発見され、王城前の広場へと運ばれていた。


 ルシフェルの体を抱え、ラファエルが必死に呼びかけていた。


 ルシフェルの最後の魂構成子セフィラが消えかかっていた。ラファエルが先ほどから回復術を施しているが、ダメージが大きすぎて回復が出来ない……つまり、手の施しようがない瀕死の状態だった


「ルシフェル様、どうかしっかりしてください!一体なにがどうなって!神の波動を感じません、神はお隠れになったのですか!?それにこの、浮遊する大量の小さな死霊傀儡は一体!」


 その傍ら、ミカエルは腕を組んで冷たい眼差しを送り、ガブリエルは放心し憔悴した様子だった。

 

 ルシフェルがうっすらと目を開けた。その口から途切れ途切れの言葉が紡がれる。


「天界開闢が……失敗したわ……。もう神域を維持できない……。セラフィムは皆死ぬ……」


「えっ……!?」


 ルシフェルの目は、どこか遥か遠いところを見ていた。


「何億世代もの間……たくさんの星を渡り歩いてきた私たち……。たくさんの星の人間たちを殺し、星を奪ってきた私たち……。そうねサタンの言うとおりかもしれない……。それは本当に進化だったのかしら……」


「ル、ルシフェル様……?」


「ねえラファエル、知っている?死んだセラフィムのセフィロトは……。最初の天界に……。セラフィムが生まれた原初の母星に……還ることができるんですって……。本当かしら……」


 そこでルシフェルは、青空にたくさん浮かぶ、赤い小さな異形達に気がついた。


「あれは何かしら……。もしかして、セラフィムの魂?魂が昇っていく姿?そう、みんな、帰っていくのだわ……。故郷に……。はるか遠い宇宙にある、見たこともない母星へと帰還していく……」


「ち、ちが、あれは……」


「私も……母星へ……」


 ルシフェルは目をつぶった。


「おい、まだ死ぬんじゃねえよクソアマ!」


「ミカちゃっ……」


 割り込んで来たミカエルは、ルシフェルの首を掴んだ。


「てめえなんかさっさとくたばりゃいいが、その前に言う事あるだろが!神が死んだら次の神だろ!死ぬ前に女セラフィムを神にする方法を教えやがれ!てめえの感傷に全セラフィム巻き込むんじゃねえよ!」


 だがルシフェルのセフィロトは完全に停止してしまっていた。

 セラフィムの秘密の全てを抱え、ルシフェルは永遠に瞳を閉ざした。


「ああ、ルシフェル様っ!!」


 ラファエルは泣き崩れ、


「クソったれが!!」


 ミカエルは悪態をついた。


 ガブリエルが呆然とした表情でかすれ声を漏らす。


わたくしたち、死ぬんですの……?」


 その時、ミカエルが何かに気づいた顔で後ろを振り仰いだ。天空宮殿の方角を。


 ちょうどエスペルが、空に向かって舞い上がっているところだった。


「あいつ、飛空まで出来るようになりやがって……」


 ミカエルはその、飛翔する羽なき男を見つめ、ふっとため息をつき、口角を上げる。

 それは一瞬で、滅びの運命を受け入れた表情だった。


 舌打ちをひとつしてから、赤い髪をかきあげる。


「あーあ、てめえの勝ちかよ。つまんねえなぁ……」

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