第117話 王立博物館(2) ガブリエル
「ライラ、あなたのような気持ちの悪い生物は、先の天界で死ぬべきでした」
「なっ……!」
「なぜ神聖なる宮殿に乗り込んで来たんですの?はるばる地球まで来るなんて、なんて厚顔無恥なのかしら」
「わ、私には生き延びる価値が無かったとでも言うんですか!?」
「そうよ!なぜあなたが地球にいるのかと誰もが思っているわ、当然でしょう?半人間の醜い出来損ない、そんな奇怪な姿を晒して生にしがみ付くなんて、なんと浅ましい化け物かしら!」
「なんっ……!」
ライラは絶句した。
「はっ、舎弟二号さんよ、てめえのほうがよっぽど醜いぜ?鏡でその陰険顔見てみろよ!」
ガブリエルの目が冷たく光る。
「……しゃべる汚物……。浄化が必要ですわね!」
ガブリエルが手を上に掲げた。するとエスペルとライラの頭上の天井が凍りつき、氷柱が生える。
氷柱はエスペルとライラ目掛けて飛んで来た。
「
ライラが火炎の輪を放ち、
「
エスペルは剣で氷柱を弾きとばしながら、カブリエルに迫った。ガブリエルは身構えもせず突っ立っている。エスペルは嫌な予感がしながらも、その胴に虹色に光る神剣を叩きつけた。
剣はすかっと宙を切る。
その姿はゆらりと歪んで、消失した。
霊体化ではなかった。
「消えた……!?」
「うふふふふ……」
笑い声が反響するようにあちこちから聞こえた。振り向けば博物館の地下展示室の中、あちこちに沢山のガブリエルが佇んでいた。
「なんだこれ!?」
「ガブリエル様の写し姿……!」
「写し姿?なるほど、偽物だらけでどれかが本体ってことか」
おそらく本体と写し姿状態のガブリエルにははっきりした差異があるはずなのだが、今いる地下展示室は薄暗く、判別がしづらかった。
「驚いている暇はなくてよ?」
全てのガブリエルが手を上に掲げる。
今度は天井一面が凍りついた。
天井の至る所から
展示室中を縦横無尽に、嵐のごとく氷柱が降り注ぐ。
古代竜の貴重な骨格模型がバラバラと崩れ去っていく。
「
ライラが霊体化してくれたが、
「
すぐに霊体化を解除する咒法をかけられた。
エスペルは舌打ちをしながら、二人の体の周囲に防御球を張った。
「
「
二人は火炎系の術で応戦する。
「そんな蝋燭のような火で私の氷が溶けると思って?」
溶かしきれなかった氷柱が、防御球に何本も直撃した。やがてピシリと音を立てて、防御球が壊れた。
「つっ……!」
二人の肩や足に、火炎術をすり抜けた冷たい刃が突き刺さり、血が流れた。
エスペルは再び防御球を張る。
絶え間ない氷柱の嵐の中、二人は火炎系の術を繰り出し続けた。防御球が壊れるたびにまた防御球を展開し。
天井の氷柱は、無限に生えて来た。
燃やしても燃やしても、無限に生えて、無数に降り注いでくる。
うんざりするような、それでいて気を抜けない、耐久戦である。
術者、すなわちガブリエルを仕留めることでしか、この無限氷柱を止める事は出来ないだろう。
エスペルは氷柱を炎の魔剣技で防ぎながら、沢山のガブリエルに目を走らせた。一体、どれが本体なのか。
いっそ
「ライラ、舎弟二号のこの分身技は一体なんなんだ!」
「空気中の水分に霊体を反射させてるって聞いたわ!」
「空気中の水分……。じゃあ空気中の水分を、つまり湿度を減らせば、反射できなくなる……?」
エスペルはそこで、はたと気づいた。
氷柱を燃焼することで、空気中に水分を送り込んでいるだけではないか、と。ガブリエルの分身をより色濃くしているだけではないか、と。
エスペルは炎の魔剣技を止めた。
「ライラ、火炎魔法を止めてくれ!」
「え?ええ……」
ライラは火輪を止めた。
エスペルは技名を叫んだ。
「
強烈な温風が地下展示室を駆け抜けた。一挙に室内の温度が上昇していく。
やがて。
ガブリエル達の姿がすっと薄まっていった。色味が薄れ、幽霊のように向こう側が透けて見える。
たった一人をのぞいて。
「湿度を下げるためには室内の水蒸気量を増やさずに、飽和水蒸気量を増やす!飽和水蒸気量を増やすためには室温を上げる!……本体は……てめえだあっ!」
エスペルは剣を振りかぶって走り出した。
「まさかっ……!」
体の透けてないガブリエルが目を見張った。
「
その魂に、今度こそ剣を突き立てる。
「あぁっ……!」
霊体化されていた為、肉体は傷つかなかったが、
痛みに顔を歪めたガブリエルに、さらなる追撃を振るう。
「いやああああああっ!!」
嬲られるように、容赦無く魂を削られ、ガブリエルはその場に座り込んだ。
ガブリエルは霊体の体を震わせ、飛び出しそうなほど目を見開いた。
「わ、
「ライラを侮辱した分だ!さあ、とどめ……」
ガブリエルは拳を握りしめ、震え声で叫ぶ。
「
ガブリエルの姿が消えてなくなった。
「チッ、逃げられたか!ごめんなライラ、殺し損なった!」
「べ、別に殺したくなんかないわよ、すっごくムカついたけど!」
「……そ、そうか」
エスペルは神域内に入ってすっかり殺しへの敷居が低くなっている己をちょっと反省した。
エスペルは床に転がる
「さあ、残るはあと一つだ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます