第110話 南下(1) 星を渡り歩く

 エスペル達は森の中を南下していた。エスペルはダチョウ形態のカア坊に乗って、ライラは低空飛行で。

 右手にたまに、テイム川の流れが見え隠れしていた。

 

「しかし蛇の次は蜘蛛型の死霊傀儡とはな。セラフィムって植物以外知らないんじゃなかったのか?」


「あの守護傀儡ガーディアン達は地球に来てから作られたものだから……。地球の下等生物の形態が職人的にイマジネーション刺激するものがあったんじゃないかしら」


「なるほど……。っていやいや、そんな芸術家みたいな大層なこと言われてもな!あいつらただの死体いじりの外道連中じゃねえか!」


「それか、下等生物の死霊や死体も材料に混ぜて作ったのかもしれないわ」


「それはそれで、こええ……。ああでも下等生物って言うけどさ、俺から見るとセラフィムの生態こそ下等生物っぽいけどな」


 ライラは眉間にしわを寄せた。


「セラフィムが下等生物?そんなわけないじゃない」


「第一段階で神域を形成し、安全に卵が孵化する領域を確保したんだろ。それって巣づくりっぽくないか?この赤い霧のドームは蜂の巣みたいなもんだ。そして唯一、卵を産める神様は女王蜂だ」


「ジョオーバチ……?」


「まあスケールが宇宙なんだけどな。星間移動して来たんだろ」


「ええ、セラフィムは、はるか昔から、星間移動を繰り返して生き残り続けているわ。たくさんの星を渡り歩いて」


 エスペルはその言葉に「ん?」と引っかかった。


「星を……渡り歩いて?」


「そうよ」


 その恐るべき意味を考える。


「なあ、もしかして、お前たちが前に居た天界ってのも、お前たちの先祖が人間から奪った星なのか?」


「ええ。既に何億世代もの間、セラフィムは惑星から惑星に移住を繰り返しているわ。先住の人間を殲滅しながら。プラーナはとても不安定でその維持が難しいの。完璧な環境が整った惑星じゃないとプラーナで満たすことはできないから、セラフィムは惑星の環境が過酷になったらすぐに星間移動を始める」


「……」


 エスペルは戦慄した。

 一体これまで、どれだけの数の星の生命がセラフィムによって全滅させられて来たのか。

 セラフィムは筋金入りの、凶悪・邪悪な侵略生命体なのだ。


「一つの星の寿命よりも長く、この宇宙が終わるまで、セラフィムは種を保存し続けるの。セラフィムが生まれた最初の天界、原初の母星がどこだったのか、誰も知らないわ……」


「母星がどこかも分からない、か……。どえらい連中に訪問されちまったなあ、地球……」


エスペルは長い溜息をついた。

その時、霊能感知器ペンダントが青く発光を始めた。


「まずいっ」


 エスペルとライラは木陰に身を潜めた。

 やがて上空に二名のセラフィムが現れた。その二名の会話が聞こえてくる。


「ミカエル様の言った通り、希石コアが破壊されていた!例の人間とライラに違いない!」


「くそ、奴ら一体どこに!」


「おそらく地上を森に隠れて移動しているはずだ、探し出……」


 言いかけた一人が、ふと地上に目をやった。


「な、なんだあのデカイ黒いのは……?」


 ダチョウ姿のカア坊は木陰に隠しきれなかったようだ。

 エスペルはダガーを二本、宙に放った。


「かはっ……!」


 首に深々とダガーを突き立てたセラフィム二人が、落下してくる。

 エスペルは、どさりと地面に落ちた二体にとりあえず枯葉を被せて隠しながら、軽口を叩いた。


「あーあ、カア坊のせいだからな」


「……」


「ん?」


 軽口に返事がないのでいぶかしんでカア坊を見ると、寝ていた。


「あれ?おい、カア坊!」


 ダチョウ姿のカア坊を揺らすと、白煙と共に普通のカラスサイズになってしまった。そしてすやすや眠ってる。


「ど、どうしたの?」


 ライラが心配そうに覗き込んだ。

 エスペルはヒルデに言われていた、大事なことを思い出した。


「あー、そういえば!疲労が溜まると睡眠する、たまに寝させてやってくれって言われてた。ちょっと酷使し過ぎちゃったか」


「どうするの移動!?南西部のプラーナ窟まで、結構あるわよ。それにさっきの会話、もうミカエル様にばれちゃってるみたいだし」


 エスペルは難しい顔をしていたが、ふと気づいた。

 先ほどから、右側に見え隠れしていたテイム川。


「どこかに船着き場があったはず……」


「フナツキバ?」


「川下り、すっか!」


「何それ!?」


 ライラはその初めて聞く言葉に目をしばたかせた。

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