第54話 傀儡工房村、襲撃(3) ダチョウもどき

 トラエスト帝国とカブリア王国の間に横たわる原野を、大きいダチョウのような生き物が、快走していた。その背中に、二人の男女を載せている。


 ダチョウのような生き物は、ダチョウにしては首も足も真っ黒で、顔の形がちょっと変だった。

 全体的な姿形はダチョウなのに、頭の形といいクチバシの様子といい、顔だけはどうも、カラスにしか見えないのである。


「ダチョウにも変身できるのか!便利だなあ、ヒルデの貸してくれた魔改造伝令ガラス!お前、名前はなんていうんだ?」


 カラス顔のダチョウにしがみついている、エスペルが叫んだ。


「使イ魔7585!ヒルデ様ガ作ッタ、7585体目ノ、使イ魔!」


 カラス顔のダチョウが大地を全力疾駆しながら答えた。


「えー、ひねりなさすぎじゃね!?俺がかっこいい名前つけてやるよ!そうだなあ……『ブラックインパクト』なんてどうだ?」


「……悪ク、ナイ……」


「あーでも、あんまお前っぽくないなあ。『カア坊』って感じだよな、お前。やっぱカア坊にしよう」


「ナゼソウナル!?」


 なお、エスペルの腹に背中をぴったりくっつけるようにして、前にはライラがまたがっていた。

 顔面蒼白で、始終無言だった。

 いやよく耳を傾ければ、ブツブツと何かをつぶやいているのだが、誰にも聞こえない


「いやよ……無理よ……なんでまた……化け物なんかに……自分で……飛びたい……」


「カア坊はなんでダチョウに変身しても顔はカラスのままなんだ?」


「ダチョウ、ブス!オレサマ、イケメン!アンナブスニ、ナリタクナイ!」


「いいじゃないかダチョウの顔、ああいうのはブサ可愛いっていうんだよ」


「……」


 ライラは終始、無言だった。



 馬の三倍の速さで、ダチョウ形態のカア坊は、カブリア王国を目視できる所まで到達した。


「あ、ちょっとここで、止まってくれ!」


 停止したカア坊から、エスペルは前方遥かに見える赤い霧のドームを眺めた。


「セラフィムは数が足りてない、警備兵の数も少ないんだよな?」


 ライラは青ざめた顔で虚ろに答える。


「ええ……。兵が足りないから、死の霧で覆ってるのよ……」


「なるべく無駄な戦闘は避けたいな……。王国の東側、トラエスト帝国側は警戒されてるよな?」


「それは、そうよ。特に門なんて……」

 

 ライラに初めて会った時、東門を目指してしまった自分の迂闊さに今更ながら苦笑いがこみ上げる。まあそのおかげで、ライラに出会えたわけだが。


 カブリア王国の西側は大陸を縦断するラック大山脈が聳え、南は不毛な大湿地帯、北は大森林が広がっていた。大山脈、大湿地帯、大森林。


 つまりは最果ての地にあるのがカブリア王国だった。


「傀儡工房村は王国北西部のテイム川流域にあるって言ってたよな。よし、北の方から回り込もう。そのほうが森に隠れて近づけるしな。カア坊、あそこらへんから森が始まってるの見えるか?あの中を進んでくれ」


「ワカッタ!」


 再び、カア坊は走り出す。

 エスペルはふと気が付いて、ライラに声をかけた。


「顔色悪いじゃないか!大丈夫か?」


「全然大丈夫じゃないわ……。化け物の背中の感覚もこの細い首も、何もかもが気持ち悪いわ……」


「何言ってんだ、カア坊はもふもふで乗り心地最高じゃないか」


「カアーーー!」


 カア坊が褒められて嬉しそうに雄叫びをあげた。


「……」


 ライラの目尻がちょっと濡れた。

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