矮翼のセラフィム

第1話 運命の出会い(プロローグ)

「これは……敵だ……。祖国の民を何万と殺した、最も憎むべき、敵……」


 一人の美しい少女を抱きかかえ、エスペルは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。


 少女の背中には、おとぎ話の妖精のような、二枚の透き通る羽が生えていた。


 他のセラフィムたちに比べると、あまりに小さ過ぎる羽だった。

 いや羽が大きかろうと小さかろうと、彼女もまた、あの忌まわしき種族「セラフィム」であることには変わりない。


 すなわち人類の敵である。


 セラフィムを殺しに出かけたはずのエスペルは今、瀕死のセラフィムを腕に抱いていた。


 少女の長い髪がエスペルの腕にやわらかく絡む。華奢な体のあまりの軽さ。

 伝わってくる、とくとくという胸の鼓動。


 エスペルは唇をかみしめた。


「っ……!」


 気づけば、駆け出していた。

 少女を背負って。


 足にまとわりつく原野の草を踏みしだき、一心に走った。 


 エスペルはとまどった。

 自分のうちに沸きあがる感情に、ひどくとまどっていた。

 そして自問する。

 何故自分はこれほど必死に、走っているのだろうと。

 何故助けたいと思うのかと。


 セラフィムは、敵だ。



 ——月並みな表現ではあるが、この出会いは<運命の出会い>だった。

 エスペルにとって、と言うよりは、人類にとって。

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