第73話
「ふう、なんか拳で語るって難しいな。」
「うん、そうだね。」
互いに傷だらけの満身創痍、語られるのは自分たちの思いだけだった。そう、純粋な思いのぶつかり合い。好ましいものではあったが詳細は伝わらない。口で話した方がより伝わるであろうことを最高に非効率的な形で伝えようとしたのだ。言葉になれている自分たちには難しかった。
「やっぱ口で語る方がいい気がするわ。」
「なんで僕たちやりたかったんだろうね。」
「格闘マンガの見過ぎかな?」
主に世紀末で秘孔を突く某有名格闘漫画の。もちろんサンデーの梁山泊で修行する物語も100週くらいは呼んでるからね。モンキーパンチ様の銃で語るシーンも好きなんだからね(ツンデレ風味)。
「そうかもしれない。」
「そっちはずっと俺のそばにいたのか?」
「うん、背後霊になってたけど君との記憶は思い出せてないから結構迷惑かけちゃったかも。」
完全に悪霊っぽい扱い方で自分のことを話す浜田。その瞳には自分を卑下にする焦燥感が出ていた。
「気にすんな、俺もあの時助けてやらなかったしな。」
「気にするよ。あの時はまともじゃなかったにしろ親に相談できたんだから。」
自殺するときは誰にも相談されずにしてしまったのだ余程危険な状態にあったのだろう。そのことに気が付けなかったのがアレン自身許せなかった。
「でもさ、それがある程度思いやれるから友達なんだろ。」
「やっぱり鎌田はかっこいいな。いじめられた時も率先して止めようとしたし僕の時も気づいてくれたのは鎌田だけだったよ。」
「それは浜田より先にいじめにあってたことがあったからな。」
俺の場合徹底的復讐主義だからな。社会人になってからはしてなかったが酒を飲んだらわからなかったろう。酒は人の本能を呼び覚ます。内に秘めた復讐に駆られた魔物を呼び覚まさないように酒の類は家以外では断つようにしていた。酒を飲んで自分が変わることが怖いのと同時に酒に逃げるのが怖い。いじめとは見逃してはならない行為だ。それから目を背けることが当たり前になってしまってはいけない。だが俺はその教義を破ったのだ。悔やんでも悔やみ切れなかった。
「早いか遅いかなんて関係ないよ。言ってくれるただそれだけで嬉しいんだよ。」
「いじめってのは社会が起こすんだ。それを俺らにまで押し付けられちゃたまったもんじゃない。そう思っていただけさ。本当に止めたかったよ。でもまあ俺みたいなちっぽけな人間如きが変えようとしてできる世界でもなかったからさ。持ち上げられてもな。」
「鎌田はさ、謙虚過ぎるのも悪いところだと思うなあ。」
「そうかな。」
「だって浜田は小さいことに神経質になり過ぎてたじゃん。」
「それもそうか。」
「今回の異世界転生ではのんびりを満喫したら?」
「お前はどうするんだ?」
「そうだね、アルティマさんに言って肉体を貰おうかな。」
「お、それはいいな。知り合いが一人いると心強い。」
「うん、楽しみにしててね。」
浜田は中学生の中でも童顔だったがこの瞬間(とき)の顔は誰よりも女らしかった。
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