第154話 光と黄の勇者

 ミーアが戻ってきた。その傍らにはアーセルが寄り添っている。見るとアーセル以外の勇者パーティーメンバーは勇者様を支え退避していく。

「アーセルは良いのか。言っておくが分の悪い賭けだぞ」

僕の問いに、一息深呼吸をしてアーセルが答えた。

「あたしまで居なくなったら、ふたりが怪我をしたときに誰が治療するの。それとこれ、ギーゼから」

アーセルが渡してきたのは聖剣。勇者の振るう聖剣のみが王種に傷を与える。それだからこそなのだろうけれど。現状これは僕たちにとっては意味が無い。僕は首を横に振る。

「聖剣は主と認めた勇者が生きている限り、その勇者に力を貸すんだ。逆に言えば、その聖剣は勇者様以外の誰にも力を貸してくれないんだよ。たとえその誰かが勇者の称号を持っていてもね」

「それじゃあどうするつもりなの」

アーセルの悲鳴のような問いへの答えは

「この剣だよ」

「あたしも、この剣ね」

僕の、いや俺の答えにミーアも言葉を重ねる。

「ここからは狩人フェイウェルでなく、光の勇者フェイウェルとして立ち向かう」

「あたしも、黄の勇者ミーアとして剣を振るうことになるわ」

「だからこそ、本当はアーセルが残ってくれたのは助かる。俺もミーアも勇者の称号によって全魔法耐性があるからな。アーセルの聖女の癒しだけが俺たちの傷をいやすことが出来る」

俺の言葉にアーセルが目を見張る。

「それじゃあ、フェイがあたしの治癒魔法でしか回復しなかったのは」

「そう、俺は生まれながらのダブル。複数祝福持ちだったんだよ。騒がれないように隠してきたけど、ここに至っては隠し通すわけにはいかないからな」

「わかった、フェイの事はわかったわ。でもミーアは違うわよね。聖都で教会の癒しの手の治癒魔法で回復していたもの」

「あたしは、成長してから授かったの。ウィンドドラゴンの討伐の時にね」

「うん、ふたりが勇者の称号、祝福を持っていることは理解したわ。でも武器はどうするの。勇者とは言っても聖剣なしでは王種討伐はできないんじゃないの」

「勇者の剣、聖剣はオリハルコンの剣だ。それに特殊な祝福、加護によって聖剣になっている。そして俺たちの剣もまたオリハルコン製。これ以上長く話している時間は無さそうだから、可能性はあるとだけ言っておく」

アーセルにそう話し

「ミーア、行くぞ。背中は任せた」

「もちろん、フェイの背中を守るのはあたしだけよ」

そう声を掛け、金色に輝く剣を手に2人並んでエルダーアークデーモンに向かい駆け出した。





------------------------------------------------

新作公開中

幼馴染の初恋は月の女神の祝福の下に

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893546447

中高生の甘酸っぱい初恋を……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る