第85話 八つ当たりに……
僕とミーアはラーハルトの墓の前に膝をついている。幼い笑顔が魔法で墓石に刻まれ在りし日のラーハルトの姿を幻視させてくれる。
「ラーハルト。パパとママは前を向いて歩いていくよ。まだ悲しいし辛いけれどラーハルトの姿を心に刻んで一生忘れずに、でも次のステップを目指すよ」
「とは言ってもパパがママに提案したのは森で魔獣に八つ当たりする事なのよ。おかしいでしょ」
フフフと笑うミーアに少しほっとしながら、
「パパとママに出来るのは魔獣を狩ることくらいだからね。行ってきます。空の上から笑って見ててね」
僕は立ち上がり、ミーアに手を差し伸べる。僕の手をつかんだミーアを軽く引き上げ顔を見合わせる。
「じゃ、行こうか」
僕達は既にフル装備だ。ただし、装備している剣だけは最近の主武器のオリハルコンの剣ではなくミスリルの剣とオリハルコンコートの剣だ。
「それにしても、八つ当たりをしにいくんだからオリハルコンの剣は魔法の鞄の中にしまっていけなんてフェイも変な事いうのね」
「だってオリハルコンの剣使ったら上位魔獣だって一撃必殺になっちゃうだろ。手ごたえ無さ過ぎて八つ当たりにならないんじゃないかと思ってさ」
そして腰につけている魔法の鞄は以前から使っている荷車サイズのものの他に、ここエイリアに腰を落ち着けてからこっち稼ぐばかりで使い道のあまりなかったお金を盛大につぎ込んでオーダーメイドした魔法の鞄をそれぞれに持っている。この新しい魔法の鞄は帝国で一番の魔道具作成師ランプペアに金に糸目をつけず最大限の性能をと指示して作らせたもので容量は闘技場並み、軽量化の魔法により重量はほとんど感じられず、更に時間遅延の効果までついている。出来上がったものを引き渡すときのランプペアの自慢気でかつ満足気な顔といったら笑えたものだった。なんにしてもこの魔法の鞄があれば狩りの獲物を持って帰られないということはよほどまで考えなくていいだろう。しかもこの魔法の鞄の不思議なところは口のサイズは広げた時でせいぜい70セルチだと言うのに10メルドもあるような巨大な岩でさえそのまま収納できるのだ。ランプペアに尋ねたところそういう魔法を付加してあるそうで、そういうものだと思うことにした。
そして狩りに出る前には一応ギルドに顔を出すのだけれど
「グリフィン侯爵夫妻、いらっしゃいませ。本日は……」
「ああ、もうここでは単なる冒険者として扱ってくれと何度言えば……」
「それはさすがに無理ってものだぜ」
「あ、ウィレムさんこんにちは。久しぶりですね」
天の剣のリーダーウィレムさんが割って入ってきた。
「俺にそのさん付けもやめてくれ。さすがに帝国の英雄であり上級貴族の侯爵たるリベンジ・ジェノサイダーにさん付けされると死にたくなる。あんたらに模擬戦を挑んだ命知らずって黒歴史だけでもいい加減死にたいくらいだからな。まったくあの頃から見た目だけは変わんねえんだからなあ。見た目でなめてかかっての黒歴史乱造するつもりがなければ俺たちの事は呼び捨てにするのと、受付の丁寧な受け答えは受け入れてくれ」
はあ、と溜息をひとつついて。
「わかったウィレム。これでいいか」
「ああ、それで頼む。それで今日はなんだ。復帰か」
「復帰というか、森の魔獣に八つ当たりに行こうってデートに誘われたの」
ミーアの答えに頭を抱えるウィレム。
「いや、あんたらなら八つ当たりだろうがデートだろうが平気なんだろうけどな」
そしてミーアの追撃
「しかも、最近の主武器だと上位魔獣でも1撃だから八つ当たりのストレス解消ににならないからってこれでって古い武器使うのよ」
「それミスリルの剣とオリハルコンコートの剣だよな。普通に高級品なんだが」
「仕方ないだろ、これよりグレード下げると剣の方がもたないんだから。この剣でも少し使い込むと剣筋に歪みが出るんだからな」
「ああ、まあいいや。つまり2人で森の深層で暴れてくるからよろしくねってギルドに伝えに来たってことで良いのか」
「おお、さすがウィレム。話が速い。というわけでノエミよろしくね。行ってきます」
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