第66話 ついてこれない装備品

 討伐報告を終えた僕たちは鍛冶師を訪ねている。グラハム伯の伝手で紹介してもらったレオポルトさんだ。

「ふむ、修理はできる」

その言葉に僕もミューもホッとした空気をまとう。

「では」

「最後まで聞け。修理は出来るがこいつらでは、もうお前たちについていけていない。予備の武器としてならともかくメインウェポンとしては力不足だ」

「どういうことですか」

「例えば、このブロードソード。オリハルコンコートで、そう簡単に曲がったり折れたりするような剣ではない。それが剣筋に負けて歪んでいる。もしこれがこれ以外の方向に歪んでいるのなら鍛錬が足りないと言うところなのだがな。この歪み方は単純にお前たちの力に剣がついていけていないということだ」

「そうは、言ってもそれ以上の剣というとそう簡単には……」

「まあ、そうなんだが。ひとつ試してみて欲しいものがある」

「試すですか。いったい何を」

「オリハルコンの剣だ」

「そんなもの制作可能なんですか」

オリハルコンの加工は非常に困難でミスリル上に薄くコートするのが精一杯だと聞いているのだけれど。

「理論上はな。ほれ勇者の聖剣というものがあるだろう。あれなぞ剣としてはオリハルコンの剣だ。まあ他にも何やら付与されておるようだがな。つまり古の鍛冶師が鍛えたオリハルコンの剣、それが聖剣だな。過去の鍛冶師にできたのならワシら今の鍛冶師にでも出来んことはあるまい。もちろん研究は必要だがな」

なんとなく言いたいことは分かった。なので聞いてみる。

「で、どのくらい必要なんです」

「おお、さすがグラハム伯お気に入りのファイ殿、話が早い。材料費と炉も専用の物が必要になるでな、とりあえず大金貨5枚といったところかの。ただし、研究なのでな追加が必要になる場合もある。もちろん全力を尽くすがの。研究とはそういうものだとは思ってくれ。そのかわり制作に成功した場合、初回お前たち用の武器は無料で、そしてその後も必要であれば材料費のみで作ってやるし、他に売れた場合は売値の10分の1をお前たちに渡そう」

「で、どのくらいの時間が必要なんですか」

「そうだな、材料の手配と何より炉の構築で30日、そこから研究試作をして100日は見てくれ」

「ふむ、その程度なら、なぜ今までやらなかったんですか」

「簡単なことよ。作っても意味が無かったからの。そんなものに大金は使えん」

「意味が無かったってそんなことはないでしょう」

「ファイ殿は分かっておらんな。オリハルコンの剣など誰が使うというのだ。実力の伴わない人間が持つオリハルコンの剣などちょっと丈夫な鉄の剣でしかないからの」

「貴族連中なら喜んで買うんじゃないですか」

「貴族だあ。あいつらにとって剣はアクセサリーみたいなもんだからオリハルコンコートで十分お釣りが来るわ」

「で、以前から興味はあったものの使えそうな客はいないわ作るには金がかかるわで我慢してたところに僕たちが鴨葱のように来たと……」

「いやいや、必要なものを必要としている人へだからな」

「ま、いいです。とりあえずこの4本のメンテはお願いします。それと普段使いは必要なので何か見繕って貸してください。あとお金は明日でいいですよね」

普段持ち歩いている魔法の鞄に入れてあるけれど、そんなことをここで言うほど迂闊ではない。

「明日で十分だ。4本は預かるとして、そこの短剣と両手剣を貸してやろう。鉄の剣だが街中の護身用なら十分だろう。4本のメンテナンスは4日で終わらせてやる。その頃に取りに来るがいい」

僕は頷き

「頼みます」

ミューと一緒に鍛冶場を後にした。


「次は防具屋ね」

ミューの言葉に頷きつつ

「こっちも強化は難しいんだよな」

もともと僕たちは軽装で動きを重視した装備を選んできている。これは重装備をして防御を上げても動きが悪くなるデメリットの方が僕たちにとっては大きいからなのだけれど、軽装である以上その防御力には限度がある。

「ま、これは防具屋で相談しようか」


 こちらもグラハム伯の紹介してくれた防具屋を訪れてみた。

「グラハム伯の紹介で来たんですが……」

「おう、聞いてるぞ。こっちにきな」

この街の武器屋とか防具屋て、みんなこんな感じなんだろうか。と思いながらミューの手を引きながらついていく。

「オレはこの店の店主のバーンハードだ。で、相談があるって聞いているんだが」

僕はちょっと驚きながら

「話が早くて助かります。まずはこれを見てください」

持ってきた袋をひっくり返し、ボロボロになった防具を見せた。バーンハードさんはそれを手に取りじっくりと見て

「レッドベアのハードレザーにミスリルの補強か。それがこの状態。おまえら何やったらこんなになるんだ」

どう説明したものかと迷った末にキュクロプスアンデッド討伐に関して簡単に説明した。

「おまえらよく生きてたな」

大きな溜息を吐きつつバーンハードさんの吐き出した言葉に僕たちは苦笑するしかなかった。

「ま、状況はわかった。しかし、王種並みの魔獣と2人でやり合って魔法くらってか……」

ブツブツと独り言をつぶやきつつ何かを考えている様子のバーンハードさんに僕たちは声を掛けづらく黙ってみているしかなかった。

 しばらく自分の世界に入り込んでいたバーンハードさんだったけれど、何かを思いついたらしくボロボロになった防具を再度観察し始めた。そしてウンウンと頷くと

「防具の傷みかたを見た感じ、おまえらは物理的な攻撃はほぼ回避しているだろう。もちろんこれからも回避しきれるという保証は無いが、現状では、むしろ回避不能な近距離からの魔法への耐性を上げるのが良いだろう。そこでゴールデングリズリーのハードレザーに動きに支障のない範囲でオリハルコンコートの補強をいれる。着こみはミスリルからオリハルコンコートのチェインメイルに変える。あと頭部を保護するこれもオリハルコンコートの軽装ヘルムを追加する。これで物理的な防御力も魔法耐性も上がる。そんなメニューでどうだ」

僕は”あっ”と思ったものの魔法耐性不要とは言えず

「え、ええ。そんな感じでお願いします」

考えてみれば他の人に秘密が漏れないようにするという意味でも魔法耐性は入れておいた方が良いかと思い直した。

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