第65話 報告
「心当たりを当たってみよう」
グラハム伯の言葉に僕は感謝を込めて言葉を紡ぐ。
「ありがとうございます。お願いします。」
「ふ、既に一騎当千、いや万夫不当だというのに、更に上を目指すか」
そこに横から声がかかる。それは当然
「あ、あの。あたしも一緒に教えてもらえると嬉しいです」
「ほう、ミューも上を目指すか」
グラハム伯の言葉にミューは
「いえ、あたしの場合は、上を目指すというより、ファイの横にいるためです。ただ守られるだけの立場じゃダメなんです。一緒になって横に並んで、背中を任せ合って。そういう本当のパートナーでいたいんです。だから……」
「わかった。ミューも十分に強いとは思うんだが。そこまで言うのなら一緒に鍛錬ができるように頼んでやろう」
「ありがとうございます。お願いします」
「ただ、お前たちに教えられるレベルの剣士となると、すぐに手が空くやつは中々いないからな。少し時間をくれ」
「はい。お願いします」
僕もミューも頭を下げた。
「それで、今日はギルドに報告か」
グラハム伯の問いかけに僕は
「ええ、帰還した時は、あまりの疲労に報告できませんでしたので、ギルドへの報告は済ませてこようと思っています。それと武器防具のメンテナンスですね」
ハードレザーの部分鎧をベースに要部をミスリルで補強した特製の防具だったけれど、キュクロプスアンデッドとの戦闘で見るも無残な状態になっていた。着込みのミスリルのチェインメイルもあちこち破れていて修繕が必要な状態だ。剣についてもキュプロプスアンデッドとあれだけやりあったのだからメンテナンスが必要だろう。それが終わるまで僕たちの戦力は大幅に低下している。早めになんとかしたいところだ。
グラハム伯との会食後、キュプロプスアンデッド討伐についての報告をするため僕たちはギルドに向かった。ギルドではノエミさんが打ち合わせ室に案内してくれた。
「ギルドマスターと今回の討伐パーティーを集めますのでこちらでお待ちください」
そう言うと、お茶とちょっとしたお菓子を出してノエミさんは部屋を出て行った。指定された席でお茶を飲みながら待っていると天の剣とグランの翼のメンバーが集まってきた。
「よ、お疲れ様。改めて討伐成功おめでとう」
それぞれのパーティーを代表してパーティーリーダーのウィレムさんとイジドールさんがねぎらいの言葉を掛けてくれた。
「ありがとうございます。思ったより苦労しましたけど、どうにかなりました」
雑談をしているとノエミさんを伴いホセさんが部屋に入ってきた。
「では、みな席についてくれ。これからキュクロプスアンデッド討伐の報告会を行う」
ホセさんの言葉に全員が思い思いの席につく。みなが席に着いたところでノエミさんが資料を手に説明を始めた。
「まず、昨日ファイさん、ミューさんのお2人の持ち込まれた討伐魔獣の鑑定の結果をご連絡します。あれはキュクロプスアンデッドでまちがいありませんでした。これによりまずは討伐依頼の達成を確認致しました」
「よっしゃぁーー」
メンバーから歓声があがる。そしてさらにノエミさんから声が上がる。
「引き続き、ファイさん、ミューさんに情報提供をお願いします」
「情報提供ですか」
僕の問いにノエミさんが答える。
「はい、今回の討伐を通じて判明したキュクロプスアンデッドの特性についての情報をギルドに提供していただけないでしょうか。なお、これは任意ですし、提供していただいた情報の程度により報奨金も支払われます」
「わかりました。……」
僕とミューは僕たち個人の秘匿したい部分に触れない範囲で出来るだけの情報提供を行った。
「僕たちに分かる範囲の情報は以上です」
打ち合わせ室内がシンと静まり返った。しばらくの静寂の後ノエミさんが聞いてきた。
「使用武器を教えていただいてよろしいでしょうか」
「良いですよ。僕はオリハルコンコートのブロードソードとミスリルのハンド・アンド・ハーフソードを使用しました」
ちらりとミューを見ると。
「あたしはオリハルコンコートの短剣とミスリルの短剣です」
ノエミさんはうなづきながら
「あなた方の使用した武器以下の武器は通用しそうでしたか」
「微妙ですね。僕たちを超える剣技を持った人なら鉄の剣でもひょっとしたらって感じですね。ただ、おそらく僕たちでは鉄の剣を持ってまともに戦うのは無理だと思います」
「あなた方でそうだと、外には数で押しつぶすしか手はない感じですか」
僕たちは首を振る。
「それでは魔法で大きな被害を出すだけです」
「いや、でも実際あなた方は……」
そこまで言われたところで、持ってきていた袋から僕たちの防具を取り出す。バサリと広がる防具にみなの目が集まった。
「僕たちの防具は軽装ではありますが、要部をミスリルで補強した特製の軽装部分鎧です。それをミスリルのチェインメールを下に着こんだうえで着ています。それがこの状態です」
ボロボロになった防具に誰も声が出せなかった。
「重装備の戦士なら1度や2度なら耐えられるかもしれません。しかし、そういう装備をした人達では、追いすがりダメージを与えることはできないでしょう」
そこまで話すとホセさんから声が掛かった。
「わかった、少数精鋭での攻略のみ可能なやっかいな魔獣だということだな」
「はい。僕たちが話せることは以上です」
「うむ、ご苦労だった」
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