恋愛
願い事とクレープ
登場人物(ただし、名前・性別・方言変換はご自由に)
男…二十代前半の若い男。暗い。若干ウエメセ。
女…男と同い年。世話焼き好き。
〇本文
男「無条件に一つ願いが叶うとしたら何にする?」
女「ああ、よくある質問ね! 私いつもこう答えてるの。(得意そうに)死ぬまで何度でも願い事をかなえてって。そしたら一つだけじゃなくて好きなだけ願いが叶うじゃない」
男「よくあるバッドエンドルートだな」
女「困ったことになりそうだったら、それを何とかするお願い事をすればいいのよ」
男「頭悪いやつは『フシギナチカラ』で事態を
女「じゃああなたは何を願うの」
男「何も願わない」
女「えーつまんない」
男「何人もの専門家の目を通して制定されている法令でさえ抜け道があるんだ。適当に考えた願いが聞き届けられると、予想できなかった副反応で誰かが必ず傷つく。かといって願い事を多方面からシミュレーションして検証するなんてめんどくさくて無理だし」
女「ふーん……じゃあなんで私に訊いたのよ」
男「素直な人間が素直に答えるのを見ると気持ちが落ち着くから」
女「(ふざけたように怒って)私をバカだって言いたいの?」
男「いいや。社会は素直な人間が多いほうがいいんだ」
女「やっぱりバカだって思ってるってことでしょ」
男「いや、バカじゃない。そういう人間のほうが、きっと社会に愛されるんだと思う」
女「社会はともかく、あなたは私を見下してるのよね?」
男「そうでもない。見上げてもいないし、見下してもいない」
女「あなたって、ほんとにしれーっとしてて、はっきりしなくて、手ごたえがないのよね」
男「俺はそれくらいがちょうどいいんだ」
女「そうよねえ……にこにこして愛想のいいあなたってあんまり想像つかないもん。とりあえず、クレープ食べに行かない? おいしい店見つけたんだけど」
男「は? クレープ?」
女「(チラシをぴらぴらさせながら)クーポンも道で配ってたの。ね、行こうよ。ほんとにおいしいんだって」
男「おいしさはそれぞれのクオリアの問題なんだけど」
女「うっとうしいこと言わないの。クレープ嫌いなの?」
男「いや……好きだけど」
女「だったら黙ってついてくりゃいいのよ」
男「……うーん……俺なんか誘って楽しい?」
女「まあ、そうね……考え方が違い過ぎるから、楽しいかって言われるとよくわかんないけど、面白いとは思うわ」
男「そっか、面白いのか……確かに俺も面白くないわけじゃないけど……(十分間をおいて)あっ!!」
女「何よ」
男「不思議だ……いま、願い事が思いつきそうな気がした」
女「へえ。あなたの願い事、じっくり聞こうじゃない。クレープ食べながら」
――終劇。
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