ロッキンチェアの女性とソファの少年

ひろみつ,hiromitsu

「御心配なさらないでください」と老婦人が言った。薄暗く、その表情はうまく読みとれない。

「しかし、たいへんなことになりましたねえ。いったい旦那様はどちらへ――」

「お茶をお持ちしますので」

 老婦人は森下の話を最後まで聴かずに、そう言って席を立った。森下は自分の話すことが無価値だと断定されたような気がした。


 気を取り直し、森下は客間を眺めた。天井にはシャンデリアが、その華やかな特性を失った状態で吊るしてあった。埃まみれである。天井自体、すすけて模様がはっきりしない。家具も時代錯誤で浮世離れしたものばかりだ。

 広さ十畳ほどのこの客間のちょうど真ん中に置かれた、ロココ調を施したと思われる楕円形のテーブルの上には、シクラメンが二本活けてあった。目の前のシクラメンを見ながら、森下は前かがみにしていた上体を椅子にもたせかけた。老婦人相手の緊張から少しは免れた気がした。

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