12 天上の光

 美鷹がふと目をキッチンのテーブルの上にやると、そこには(昨日まではその場所に置いていなかった)一冊の本が置いてあった。

 自分のペンギンの柄が描かれているマブカップでコーヒーを飲みながら美鷹がその本を手に取ってみると、その本は『天上の光』という題名の本だった。

 美鷹はなんとなく、そのほんの数ページを読んでみることにした。


 天上の光


 ……私のこと。覚えていますか?


 仕事で小説を書いている田辺一は、ある日、その小説『天上の光』を読んでくれたある一人の女性から、会えませんか? とメッセージをもらった。

 田辺はそのメッセージを不思議に思った。

 なぜなら、天上の光は、まだ田辺のノートパソコンの中にだけある、表に作品として発表していない小説だったからだ。

 田辺は夜のマンションの部屋の中で、「うーん」と背伸びをしてから、くるくると回る椅子の上で、考える。

 そのメッセージは確かに田辺が小説、天上の光を書き上げたあとに、送られてきたメッセージだった。

 天上の光、と言う小説の題名も、その内容に関する感想も、確かにこの女性が、この天上の光という小説を読んでいることを証明していた。

 しかし、でも、どうやって?

 まさかハッキングでもしたのか? いや、そんなことはありえない。世界的に有名な作家の未発表の作品というのなら、話は別だか、僕の作品にそこまでの苦労をして、わざわざ作品を読もうとする人がいるとはどうしても思えなかった。

 田辺は悩む。

 でも結局、田辺はその女性と一度会ってみることにした。

 どちらにしても、どこかでこのノートパソコンの中から、作品の情報がどこか外部に漏れていることは間違いなさそうだ。僕の小説をどこで読んだのか? それだけでも、その女性から聞きださねばならないと田辺は思った。

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