生チョコのビターな甘さに詰め込んだ想い

ぽちこ

生チョコのビターな甘さに詰め込んだ想い

同期のアイツには彼女がいるらしい。

本人の口から聞いたわけじゃない。

おちゃらけて"ノリ"が全てみたいな所がどうも苦手。

その"ノリ"が私にはどうにも合わないと思う。


そんな私とアイツが同じプロジェクトチームになった。

「よろしく〜」って肩を軽くポンポンって。

なんで馴れ馴れしいの?

なるべく関わらないように。って同じチームでどうやったってそんなの無理。

"そつなく"毎日をやり過ごす私。


そしてあの日、私は有り得ないミスをした。

放心状態の私を横目にアイツがテキパキと「〇〇先輩アレをお願いします!」とか言って何とかしようと動き回ってくれている。


ますます落ち込む私。

そこへアイツがやって来て、見たことも無いような冷めた目で

「部長に説明して先方へお詫びに伺うべきじゃない?」

「そうだね…」

と返すのが精一杯だった。

そんな目をするんだ。


そして騒動も何とか収まり、

改めて会議でチームのみんなに謝った。


情けない…。

会議室を出てトボトボ歩いていると

「元気出せよ」って落ち着いたトーンで言いながらアイツが澄ました顔で私を追い抜いて行く。

そしてやっぱり、私の視線の先で同期の男の子といつものようにおちゃらけてる。


どっちが本当なの?

何度も見ちゃったから。

的確な状況判断と気配り。

ノリだけのヤツって思ってたのに、ちゃんとしてる。

あんな風だけど、すごく出来るヤツなの。


その日から私の視線はいつもアイツを追う。

おちゃらけてない方のアイツを探してホッとする毎日。

アイツと話をする時は目が泳ぐし、上手く話せない。


私、恋しちゃってるじゃん。


今日はアイツが朝から「チョコないの〜?」って言って回ってる。

そう、バレンタインデーだ…


彼女がいるんじゃないの?


そう思ったけど、身体は動いていた。

言い回ってるんだから、それに乗っかろう。

チョコレートを渡したい。

アイツがどう思うかなんてどうでも良くて。

お昼休み財布を手にお気に入りのケーキ屋さんへ走る私。


「生チョコ1つ下さい!」

オレンジ色の箱にダークブラウンのリボンがかけてあった。


敢えて軽く渡そうとすると、

おちゃらけて無い方のアイツの口からまさかの言葉。

「これ本命だよね?」

「え?あ、いや…」

「違うんだ…」

「本命って。彼女いるくせに」


すると

「誰から聞いたか知んないけど、いないから。本命なら受け取る」

しっかり私の目を見てアイツは言った。

他の人からも受け取ってるじゃん。

みんなにそう言ってるわけ?

ちょっと意味がわかんない。


でも、私は黙って生チョコを差し出した。

アイツの真剣な目が、私の心の中をのぞこうとしてる。


私の手からチョコを受け取ったアイツは、

「よっしゃ!」って軽くガッツポーズした。

おちゃらけ具合が気に食わなかった同期のアイツは彼氏になった。


その夜一緒に食べた生チョコは、ココアがいい具合にビターで、トロける甘さだった。

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