あけぼの交番ゾンビ対策本部(予定)
柄本 萌
ライジングルーキーが地域を守る!
「だからさぁ、日本には大口径の弾を装填出来る銃器が無いわけ」
私がそう言うと、ムッチーが「あれかい?」と言った。
「ダーティーハリーがドンパチやってたマグナムってヤツかい?」
「ダーティーハリーは映画館で見たよ」
たっつーがちょっとウキウキした感じで、ムッチーと映画の話で盛り上がっている。
「やぁねぇ、男の人達は。やたらと鉄砲で撃ち合う映画が好きなんだから」
かっこちゃんが呆れた様子で男性陣を見遣っている。かっこちゃんはムッチーの奥さんで2人揃って病院帰りに、ここあけぼの交番に遊びに来ている。
「そうは言っても、やっぱマグナムは必要だよね。
M500とまではいわなくても、357マグナムとかデザートイーグルとか」
私がそう言うと、富ちゃんが笑顔で振り向いた。
「デザートって食事の後に出てくるお菓子の事よね?ずいぶん可愛い名前の鉄砲ねぇ」
「イーグルってどんなお菓子かしら?」
「あの栗のやつじゃないのかい?」
「あれはモンブランでしょ」
「じゃあ一時流行った表面がパリパリしたプリンみたいなお菓子じゃないのか?」
ムッチーや富ちゃん達がお菓子の話しで盛り上がっている。
富ちゃんはかっこちゃんのお友達で、病院帰りにここに寄るのが地域のお年寄りの定番コースになっているらしい。
「ムッチーそれはブリュレだよ。強力な武器だからさ、名前だけでも可愛くしたかったんじゃね?」
私が話しているところへ、被せるようにして奥の机で書類を書いていた加賀っちが口を挟んできた。
加賀っちというのは、私の指導官で階級は巡査長だ。
「デザートイーグルのデザートは砂漠という意味だ。イーグルは鷲。砂漠の鷲という名前だ」
うは。さすがわたしの担当指導官。興味なさそうにしてる割に耳はダンボか。つか、デザートの意味が砂漠ってどゆこと?
「でも、どうしてそんな物騒な武器が必要なの?」
富ちゃんが私に疑問を投げかけた。
「そりゃあ、ゾンビに対抗する為だよ。ヤツらは見境なく人を襲って食べちゃうからね」
「お巡りさんは鉄砲持ってるでしょ?」
「え?ニューナンブM60の事?M37エアウェイトもあるけど、口径がねぇ。装填数も少ないし、マグナムだってそんな装填数が多いわけじゃないけど、威力が違うもん。せめてショットガンとか持てたら良いけど、猟銃でさえ日本じゃ装填数が3弾って決まってるから話にならんのよ」
「鉄砲の決まりはよく分からんが、それでもくるみちゃんは、俺達を守る気満々なんだねぇ」
「当然です!地域を守るのは私達の責務です!そして私は、ゾンビから市民を守る為に警察官になったのだ!」
私が胸を張ってそう言うと、加賀っちがいつもの石仮面の如き無表情で私を見るなり口を開いた。
「大場巡査、架空のゾンビ話しはその位にしておけ」
なんでだよ。大切な話しじゃん!
「何が大切な話しだ」
ゲッ!私の心の叫びを読み取ったよ!ニュータイプか⁈
「しっかり言葉に出してたぞ」
加賀っちが呆れた様子でそう言うと、ムッチーがまあまあと言いながら間に入ってくれた。
「くるみちゃんは、俺達を守りたいんだよね」
流石ムッチー、分かってる
「だってね、アメリカではちゃんとした大学でゾンビが発生した場合、どの位の速さで感染していくかって真面目に研究してるんだよ?日本も真剣に取り組むべきだよ!」
たっつーがニコニコ顔でうなづいている。
「それでその重責をくるみちゃんが担っているんだよね」
「そう!この東京某所にあるゾンビ対策本部こそが日本の防衛の要なのだ!」
「東京某所ったって、ここは東京の・・」
ムッチーがそこまで言いかけた処で、私は慌ててシッと言って遮った。
「ムッチーダメだよ!極秘事項なんだからさ!悪の組織にここの場所がバレたらヤバいじゃん!」
「あら、でも表のあけぼの交番って表札にゾンビ対策本部って書いてるじゃないの?」
富ちゃんがそう言うと、加賀っちがエッ!と言って椅子から立ち上がった。
「外人さんは、カタカナと漢字が混じった文字は理解出来ないから大丈夫」
と私が話している間に、加賀っちが表に飛び出して表札を確認している。
「悪の組織は外人さんばっかりなのかい?」
「加賀っち見てても分かるべ?日本人は死者が蘇る事への恐怖心が薄いみたいなんだよね。その点、外国の人は宗教的にもゾンビに多大なる恐怖を抱いているからさ。世紀末思想ってヤツだよ」
「大場巡査!」
表で加賀っちが私を呼んでいる。
「お前、こんな所にこっそりと!何を考えているんだ!」
そんな怒らなくてもよく無い?
仕方なく表に出ると、加賀っちがいつもの石仮面はどこへやら、鬼の形相で表札の横を指差している。
絶対見つからないと思ったんだけどなぁ。
富ちゃんも出て来てバラして申し訳なさそうな顔をしている。
「富ちゃん、よく気付いたね」
私が感心してそう言うと、孫のリリちゃんとミミちゃんが教えてくれたのと言った。
「でも、孫達もハコ長さんに教えてもらったって言ってたのよ」
ガハッ!ヤツか!ヤツなのか!
そこへ我らがまっしーこと真島巡査部長が巡回から帰って来た。しかも、ヤツも一緒だ。
「どうしたんだい?何かあったの?」
優しい笑顔で鬼の形相の加賀っちに話しかけている。
「どうしたもこうしたも、大場巡査が此処に!ゾンビ対策本部と!マジックで書いているんです!」
「え?そうなの?」
加賀っちが指差している場所を覗き込みながら、まっしーがつぅっと目を細めた。
「よくこんな小さな字を書けたねぇ。僕にはよく見えないよ」
ハハハとまっしーが笑った。
「笑い事じゃないですよ。こんなの前代未聞だ」
「まあ、警視庁の偉い人がこの字に気がつくとは思えないけど、全ては国民の税金で賄われているわけだから、大場巡査にも自分なりの信念があるだろうけど消してくれると有り難いよ」
私はサッと敬礼をして「アイアイサー」と返事をした。
「真島さんは大場巡査を甘やかし過ぎですよ」
加賀っちがいつもの石仮面に戻って真島巡査部長に意見している。
私は加賀っちより、富ちゃんのお孫ちゃん達に事をバラした憎きヤツめを目で追っていた。
「大場巡査!ちゃんと聞いているのか!」
「聞いてます!ちゃんと消します!」
くそ!絶対許さん!
あけぼの交番の中ではムッチーやかっこちゃん達がハコ長さんとかおまがりさんとか口々に呼びかけながらヤツめをチヤホヤしている。
「言っておくが、田島さんや村上さん達がこのあけぼの交番に訪ねてくるのは、君の相手をする為じゃない。ハコ長に会う為に来ているんだ。おかしな話を吹き込むのはよせ」
おかしな話ってなんだよ。
「とにかく中に入ろう。警官3人が交番の前に立っているのもなんだからね」
まっしーのニコニコ顔にマジで心癒されるよ。
「ハコ長さんにオヤツをあげてもらって良いですか?」
まっしーがムッチー達に声をかけると、みんな大喜びだ。
みんなに大人気のハコ長様は、しっぽの先がヘアピンカーブの様に曲がった猫(尾曲猫というらしい)で、なかなかの食わせ者なのだ。
なんで猫がハコ長、いわゆる交番長なのかというと、わたしもこのあけぼの交番に配属されて日も浅いのでよく分からない。
兎にも角にも、地域の安全安心、ゾンビの襲来から地域住民を守るのはこの私、ライジングルーキー大場くるみ巡査なのであります!
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