いじめられっ子が異世界で成り上がった件について

駐車場の野良猫

第1話 異世界転移と王都追放

 僕の名前は氷室正彦。ただの中学3年生だ。僕の特徴をあげるとすれば本当にモブキャラだということだ。学内のいじめにも加担せずどちらかというといじめられる方(これを平凡なモブキャラとしていいのだろうか?)成績はトップクラス、運動は上の下である。友達関係は狭く(昔は・・・)、幼馴染の女子はいるが今は全く関わりがない。まあ人と違うのは学年のアイドルに話しかけられやすいところだろうか。もちろん、だからといって自惚れない。彼女はいじめられっ子の僕を心配して仕方なく声をかけているだけなのだ。舞い上がったりはしない。決してそのアイドルが僕に好意なんて抱くわけないのだ。

 さて、そんな僕はというと・・・


「ここは・・・?」


 白昼夢でも見ているのだろうか?見慣れた教室だったのがどこかのアニメで見るような城の、王との謁見の間みたいなところにいる。なぜか見たことがあるような気がする。うっ、頭が・・・何か忘れてる気がする。周りを見ると僕たちのクラスメイト全員が転移したということだろうか?いや他のクラスの生徒もいる。ざっと120人程度だろう。僕の幼馴染(腐れ縁)は他の女子とまとまって怯えている。友達のアニメやラノベ好きの奴らでさえ突然のことに呆けている。ただ幼馴染の東や大友や金城達はなぜか驚いていない。こんな経験が今まであったのだろうか?他のみんなは驚いている。それはそうだろう。つい数分前にはいつも通りの日常を過ごしていたら、急に魔法陣が教室の床に展開するなんて思いもしないだろう。確か昼休みのときだったか。




「今日の授業はこれまでです。」

「気をつけ!礼!」

 この言葉のあとみんな競うように学食に走るか、弁当を取り出すか、教師に質問するかの3パターンの行動が行われる。今日は真面目な福田と中村、佐藤が質問していた。1つおかしかったことは毎日学食に走る玉井達4人がなぜか弁当を持っていた。まあそういう日もある。そんな疑問は次の瞬間どうでもよくなった。


「おい氷室!今日放課後カラオケ行くんだかよ、ちょっと今金欠だからよ、金貸せや」


 断るという選択肢はない。なぜなら今僕は内田達5人に囲まれていて逃げ場はなくしかも断れば陰湿な攻撃と暴力の両方を受けるからだ。すると


「こら内田君、氷室君をいじめちゃ駄目だよ!それにカラオケは自分のお金で行きなさい。」


 神崎さんが声をかけてくれた。うん?心なしか内田の顔が赤くなった。かと思ったら少し引きつった?気のせいか。


「チッ。まあいいか。放課後すぐまた来るからな。」


 内田達は自分の席の方へと戻っていく。


「大丈夫だった?氷室君?」

「うん。ありがとう神崎さん。助かったよ」

「でも自分の言いたいことははっきり言わないと、だめだよ。」

「・・・」


 反抗なんかしたら殴られる。喧嘩して勝てるわけもないし、どうしろというのだろう?


「大丈夫。もし殴られたりしたら私が守るよ。先生呼んだりいざとなったら体を張ってね。」

「ありがとう」


 それにしてもなんで神崎さんは僕に構うのだろう。きっとこの世のいじめを根絶やしに!とか考えてるからなんだろう。僕とは大違いだ。確かにいじめは無くなってほしいとは思うが。

 そんな他愛もないことを考えていると


「あれ氷室君お弁当は?」

「もう食べたよ。」


 どうせたくさん持ってきても内田達にとられてしまうので、エネルギーチャージとおにぎり1つしか持って来ない。お腹がそれでも空いていたら常備してるカロリーメイトを食べる。


「そんなに少なくて次の体育とか大丈夫?私のお弁当分けてあげようか?」

「大丈夫だよ。神崎さんが食べなよ」

「いいよ私は。少しお腹いっぱいになってきたから。これあげる」

「じゃあお言葉に甘えて」


 神崎さんが渡してきた卵焼きはとっても美味しかった。少しクラスメイトの視線が厳しくなったような気がした。


「美味しい?私が作ったんだけど」

「美味しいよ」


 神崎さんが作っただって!?幸せだ。これならいじめを差し引いてもお釣りが来るよ。ただまあ周りの辛辣な視線も合わせるとチャラかもしれない。

 などと多少桃色の気分になっていると突然床が青く光った。びっくりして下を見ると教室全体にゲームやアニメで見る魔法陣が展開していた。担任の吉田先生が


「みんな逃げて!」


 というも間に合わず、僕たちは白い光に包まれたのだった。


 などと思い出していると奥の扉から美人の女性が出てきた。大半の男子は鼻を伸ばしている。それを女子が冷たい目で見ている。するとその女性は話し出した。


「皆さまアステカ王国へようこそ。私はアステカ王国の第一王女 ポラリスと申します。皆さまを地球から勇者として召喚させていただきました」


 ここでみんなが騒ぎ出す。そこにみんなを代表するつもりだろうか。うちのクラスの人気者佐藤勇気が手を挙げた。


「俺らは何をすればいいのでしょうか?そして元の世界に戻れるのでしょうか」

「皆さまがこの世界の魔王を倒せば元の世界への道が開けると文献にはございます。・・・(この間いろいろなことの説明)・・・皆さん100人を召喚いたしました・・・あれ?おかしいですね召喚者が118人います!まずはステータスを確認してください。皆さんにそれぞれ特別な能力が与えられているはずです。」


 僕はステータスを確認する。すると

氷室正彦 15歳 男

称号 転移者

天職 ???

レベル 1

体力 130

攻撃力 25

守備力 35

知力 100

魔力 500

敏捷 25

魔法耐性 40

特殊能力 能力コピー ??? ??? ??? ??? ??? 千里眼LV2

スキル 言語理解 鍛治LV1 剣術LV1

能力コピー

1人の能力、スキル、技を全てコピーする。(ギフトはコピー不可)。一回のみ使用可能。ただしこの能力を使うまで能力上昇率は半分になる。使った後は1.2倍になる。


 これは今早速使った方がいいのか?いやもっと強い相手に使おう。成長率はなんとかなるはずだ。それと???ってなんだ?


 なお周りを見るとうちのクラスの人気者佐藤のステータスが騒がれていた。


佐藤勇気 15歳 男

称号 転移者

天職 勇者

レベル 1

体力 140

攻撃力 230

防御力 200

知力 150

魔力 180

敏捷 220

魔法耐性 170

祝福ギフト 聖神の加護

スキル 言語理解 勇者の卵 聖剣召喚 剣術LV1 リーダーLV1

火魔法LV1 水魔法LV1 雷魔法LV2 氷魔法LV1 風魔法LV1 光魔法LV2


 なるほど。これはすごい。

 ついでに僕の幼馴染とうちの学年のアイドルのステータスを乗せておこう。


秋山風華 14歳 女

称号 転移者

天職 魔法使い

体力 70

攻撃力 65

防御力 80

知力 110

魔力 180

魔法耐性 100

特殊能力 ??? ???

祝福ギフト 風の子

スキル 言語理解 風魔法LV1 体重軽減LV1


神崎華 14歳 女

称号 転移者 アイドル

天職 聖職者

体力 100

攻撃力 90

防御力 120

魔力 200

魔法耐性 200

特殊能力 ???

祝福ギフト神鳥の威光

スキル 言語理解 弓術LV1 水魔法LV1 光魔法LV2


 さすがアイドル。勇者には及ばないがすごいステータスだ。それに比べて自分は・・・ いやいやこの2人には負けても仕方ない。けれども幼馴染の風華には負けたくなかったなぁ。

 そんなことを思っているとポラリスが喋り出した。


「皆さま見ていただけましたか。異世界人のLV1の能力の平均値は70よくて120越えもいるくらいです。詳しいことは後で説明いたします。皆さん見てわかると思いますがギフトの欄がありますよね?その方々が勇者100人です。」


 うん?おかしくないか?この学年100人以上いるぞ?他の奴、いや僕を含めたギフト持ちでない奴はどうなるんだ?


「王女様。残りの18人はいかがなさいますか?」


 衛兵の1人が王女に耳打ち(出来てない)した。


「ギフトもち以外の方々は追放させていただきます。」


 え?俺ギフトないんですけど・・・追放されるの?そんな理不尽なことあるわけ・・・

そんなことを思っている間に僕を含む18人が衛兵に取り押さえられた。そして謁見の間?から追い出されようとしていた。なんで他のクラスメイトは止めようとしない?と思ってクラスメイトを見る。するとクラスメイトの大半は僕たちに憎悪の目を向けていた。担任の吉田先生さえ憎悪の目を向けていた。憎悪の目を向けてないのは幼馴染の風華と神崎さん、あと泉などの一部のクラスメイトぐらいだ。何が起こっている?なぜそんな目で僕たちを見る?そうこう考えているうちに


「お前たち18人には明日には王都から出て行ってもらう。」


 すると取り押さえられてるうちの1人であるうちのクラスの田中という坊主が


「そんな理不尽なことが許されてたまるかよ!」


 と殴りかかるも衛兵には勝てるはずもなく取り押さえられる。そうこうしているうちに街の出口へとついてしまった。


「ここから出て行け!この町に入ることは禁止する!後王女様から一応1人銅貨10枚渡されるそうだ感謝しろよ!あと宿はここにするように!宿代はいらない。」


 というと衛兵たちはどこかへ行ってしまった。


 僕は部屋で情報整理を行ってみた。(適当)

1ここはアステカ王国

2 日本には魔王を倒さないと帰れない(らしい)

3 僕たちは追放された

4 ここの土地勘もなく持ち物もない


 あ これ詰んでる。いや冒険者になれば金は稼げる。なら武器を買いに行こう。あとこの世界のことを知るために図書館に行こう。


 結局買ったのは安物の剣1本のみ。

 どうやらこの世界のお金の価値は

オリハルコン貨1億円

白金貨 1000万円

白銀貨 100万円

金貨10万円

銀貨1万円

銅貨1000円

鉄貨100円

木貨1円

だろうか。鉄貨と木貨の間にいわゆる10円相当の貨幣があるのだが、使われている素材がわからないので割愛する。あと収穫は魔法が使えるようになったことかな。これで手持ちは銅貨2枚。外に出て稼ぐしかなさそうだ。


 宿に戻ると13人のメンバーが揉めていた。


「あいつらは夜、俺たちを殺す気なんだ!だから今すぐ街を出て逃げよう!」

「何を根拠にそんなことを言うんだ。俺たちは寝床もないんだぞ。」

「衛兵の話を盗み聞きした。そしたら今日俺たちの部屋の明かりが消えたら襲撃すると言ってたんだよ!」

「なら逃げないとダメじゃない。ともかく全員を集めましょう。」

「いや、俺は逃げない。この国はそこまで悪ではないはずだ。」

「何いってるんだ!みんなで逃げないと俺たち殺されちまう!」


 このような有様だ。そこで1人がおずおずと話しかけた。


「あの・・・」

「あ!なんだお前!あぁ戻ってきたのか。なんか言いたいことあるのか?」

「こんなところで揉めても仕方ないです。僕はこの街を出た方がいいと思います。でも出たくない人を無理矢理連れ出すのはやめた方が」

「何いってるんだお前!残ろうとするやつを放置したら見捨てたことになるんだぞ!それでもいいのか!」

「そんなこと言っても残ろうとする人は考えを曲げませんよ。」

「ああ、俺たちは逃げるつもりはない。もし逃げるんなら勝手にしろ。」

「チッ わかったよ。死んでも知らねぇぞ。」

「なあに君の言うことが本当かもしれないから、明かりを消した後すぐには寝ないし脱出準備はしておくよ。」

「そうか、わかった。ならここから出るやつは南門に9時集合な!」


 結局逃げる人は11人。僕は逃げる方を選択した。



夜9時。11人が集まった。


「全員いるな。行くぞ。勘付かれないように静かにいくぞ。」


しかし南門には10人の衛兵がいた。


「お前たちこんな時間にどこにいく!うん?お前らは召喚者の18人のメンバーか?お前たち、皆殺しにしろ!」


すると後ろの衛兵が襲いかかって来た。


「突破するぞ! ファイアボール!」

「アクアボール」


しかし2人の魔法は相殺されてしまう。


「ちくしょう!衛兵は倒さなくていい。魔法が使えるやつは魔法を、使えないやつは接近戦で魔法使いを狙え!」

「「「「「了解」」」」」


 しかし、僕らはレベル1。あっという間に劣勢になってしまう。そうこうしているうちに魔力が尽きたのか、魔法を使っていた奴らが嘆き出す。


「くそ!魔力切れだ」


僕はその間に氷魔法を唱える


「うまくいけ!アイスジャベリン!」


 するとどう考えても大きい氷の槍が現れ衛兵を蹴散らす。仕切ってたやつは一瞬呆けると


「今だ!門を抜けろ!走れー!」


 一斉に走り出すみんなに続いて僕も走り出す。しかし、その時後ろにいた衛兵が3人を斬り殺してしまった。しかしそれに気づいたのはごく数人で、みんな夢中で逃げて行ってしまった。


ーエステカ平原ー

「みんな無事か?」

「3人いないぞ!」

「2人は死んだよ・・・ 斬り殺されてた。」

「もう1人は?はぐれたのか?」

「わからない」

「そうか。仕方ない。これからのことを考えよう。」

「いや。待てよ!お前なんで最初からあの魔法を使わなかった!使ってたらもっとうまくことが運べてたかもしれないじゃないか!2人だって死ななかったかもしれない。」


と言って僕を指差す。


「あの魔法はやったことないし、詠唱時間だってかかるんだよ。」

「じゃあなんだ!詠唱時間が5分もかかるってのか!ええ?」

「おい待て。今仲間割れしても仕方ない。俺たちはこいつの魔法に助けられたことには変わらないんだからな。」

「でもよぉ」

「もういい。これからのことだが3つにパーティーを分けよう。」

「どうしてだい?みんなでまとまった方が安心じゃないかい?」

「もちろん次の街までは一緒だし、基本まとまる。だがレベル上げをするときや、強くなった後々のことを考えて言っている。」

「それならいいよ。じゃあどう分ける?」

「グーチョキパージャスでいいだろう。」

「適当だなあ君は。まあいいけど」

「「「「「グーチョキパージャス」」」」」


 なんと僕のいるグループは、僕と同じクラスの女子2人、あと僕に突っかかって来た男、これまた同じクラスのいじめっ子である内田の4人になった。


「明日からはこの4人1組で行動しよう。今日は野宿だ。いいな?」

「わかったよ。それじゃあいい場所を探そうか」


 こうして僕達の異世界生活初日が終わったのだった。僕は寝床(と言っても原っぱだが)につく。その背中を憎しみと嫉妬、怒りに満ちた視線で見つめる男など知らずに。

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