第17話 書記、湖上都市国家で新たな敵と遭遇する 3

「――うっ!? 何だこれ、拘束魔法……?」


 ホールド 持続性の行動制限魔法 

 スキル次第でモンスターにも有効 

 コピー完了


「だ、大丈夫ですかっ? よく見えないんですけど、光の輪のような物が幾層にも重なって、エンジさんを包んでいる気がします」

「へ、平気平気……」


 どうやら痛みを伴うものではなさそうだ。


 現状の俺のスキルで対応できるかといえば、それは微妙だったりするが、とりあえず編集をしておこう。


 ホールドを編集 麻痺と眠り効果を追加 モンスターにも効果あり。


 今はこんなところか。


『何を呟いている!! 貴様が我が国を脅かす存在であるのは明白だ! このまま連行する。大人しくしろ!』


「え、そんなっ……待ってください! 彼はそんな悪い人なんかじゃ……」


『黙れ! 仲間だというのなら、女……お前も連れてゆくぞ!』


 どうやらセイアッドスタッフの光は、すでに輝きを失っているようだ。


 壁を弾いたのは俺の手では無く、レシスの絶対防御が防衛反応を示しただけと見られるが。


「(レシス、ちょっといいかな?)」

「(え、はい。私はどうすれば?)」

「(その杖で俺を叩いてくれないかな。そうすれば、きっと上手くいくから)」

「(えぇぇっ!? そんな、そんなこと……)」

「(早く頼むよ。叩かなくても、触れてくれるだけでもいいから)」

「(わ、分かりました)」


 このまま黙って連行されるわけには行かない、そう思ったら、レシスに耳打ちをしてお願いをしていた。


 タルブックの兵は顔もまともに見せずに、疑ったまま俺を拘束した。


 声からして女兵士と分かったので、どこかしらに油断と隙があると踏んでいた。


『何をしている? 女、そこをどけ! 連行を――』


「い、行きますよ! やあぁっ!!」


 純粋な彼女らしく、優しい力加減で杖を俺にコツンと当てて来た。


 直後すぐにホールドは解かれ、同時に兵士に対して、編集済みのホールドをかけることに成功した。

 

「な、何ッ!? 何だこれは……貴様の仕業だというのか? わ、我が国をこのまま貶めるつもりかっ!」

「すみませんが、その口を閉じさせてもらいます。たかが壁に魔法をかけておくということは、近くに兵がいるはずですから」


 コピーしたホールドに追加した麻痺効果を使い、一時的にでもこの兵士の言葉を紡がせないようにした。


 魔法を使用する兵という時点で、即座に召集をかける魔法くらいは、かけられてもおかしくないからだ。


「え? ど、どうして?」

「レシスのおかげで、俺にかかっていた拘束魔法は解けたんだ。そしてそのまま、この兵に同じ魔法を施してあげたというわけ」

「そ、そんなことが……ううん、ラフナンさんたちがいた時もそうでした。魔法をあんなすぐに使っていたことに驚いて、何も言えなかったんですけど、その力……エンジさんはもしかして書記スキルを極めたんですか?」


 さすがに【コピー】という言葉は出て来ないか。


「き、極めたわけじゃないけど、そんな感じかな」

「す、すごいです!! 落ちこぼれなんかじゃなかった。書記って、そんなことまで出来たんですね!」


 そんなことは出来ないけど、すごいと思われたから、今はこれでいいか。


「さてと、魔法兵士さんに触れて、探りを入れてみるかな」

「それで何か分かるんですか? というか、気を付けてくださいっ」

「麻痺をさせている内に、この人が何故俺を尾けていたのかを調べようと思うんだ。大丈夫、体の一部に触れるだけだから」


 どこに触れても分かるけど、麻痺で動かせなくなった口に触れてみるか。


「き、貴――様――」

「失礼しますよ」


 サラン・ミオート 女 

 タルブック国家魔法衛兵士 ランクB 

 物理耐性A 魔法耐性C 固有魔法ホールドを習得済み 非常に頑固


 やはり女性か。


 魔法は使えるのに耐性は低いとか、やはり物理の方に重点を置いているということか。


「あ、あわわわ……エ、エンジさんっ。そ、そんな……」

「え? どうかした?」

「わ、私の常識では、女性の口を塞ぐ行為は……その……あの」

「あっ……と。そ、そういうつもりじゃなくてね。これは相手のスキルを見る為で、そういう意味じゃなくて」

「え、スキルを見るのに口に手を付けるんですか? そ、それじゃあ、私の口にも触れれば見られるんですか? 私もエンジさんの口に触れれば……」


 口が滑ったか?


 しかし何かを曲解したのか、レシスは一息ついてから何故か、自分の口に触れてくださいと言い出した。


「見てみたいですっ! 私のスキルはどんな感じなんですか?」

「い、いやっ、見るのは俺だけで、レシスは見られるだけだからね?」


 やはりどこかズレが生じているようだ。


 これはいい機会かもしれない。さすがの絶対防御も、自らが差し出して来れば守りようがないだろう。


「じゃ、じゃあ、触れるからね?」

「お、お願いしま――」


『ふざけた真似を……たとえこの身を拘束したとて、我が身を貴様ごとき敵に委ねることには繋がらぬぞ!!』


 麻痺の効果を強くしなかったこともあってか、サランという兵士は拘束状態にありながらも、兵士としての自尊心を失わずにいるみたいだった。


「――あ! エンジさん、ごめんなさい! 今はそんなことをしている余裕は無かったですよね」

「あ、うん」


 またしてもレシスに触れられなかったか。


 彼女には絶対防御の他に、何かしらのスキルを隠している気がしてならない。


 俺が見ることが出来たのは、光の杖だけであり、レシス本人じゃない。


 しかし今は目の前の兵士をどうするべきか、まずは敵対心を下げる努力をするしかなさそうだ。

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