第15話 書記、湖上都市国家で新たな敵と遭遇する 1
岩窟の外にコピーしたオークを置き、俺たちは、湖上都市タルブックを目指していた。
フェアリーであるザーリンによると、タルブックは水上に都市を形成し置いていることから、国として防衛力に優れているということらしい。
レシスを加え、ナーファス村からしばらく歩き続けると、ゆるやかな川面が広がっていた。
陽の光が反射し照らし出す光景は、山ばかりのログナとは、別世界を感じさせるように思えた。
「にぁ~~ピカピカ光っているにぁん」
「泳ぐなら止めない」
「泳がないにぁ! 全く、ザーリンはいつもいつも意地悪にぁ!」
リウは常に好奇心旺盛な姿を見せるのに対し、ザーリンは感情を動かすことなく、それでいてリウを面白く感じてからかってばかりだ。
フェアリーは、気まぐれな性格をしているらしく、気に入った相手にはあえてそうするのだとか。
そんなリウとザーリンが気になるのか、レシスが声をかけて来た。
「エンジさんは書記なのに、すでに仲間を得られてしかもリーダーなんて、すごいです!」
「書記は関係ないかな。ご存じの通り、俺はギルドを追放されてログナにはいられなくなった厄介者ですから」
「そ、そんなことは――」
「君はそうじゃなかった?」
「良くはされなかったですけど、勇者パーティで色んな所をついて回っていただけなので、お荷物といえばそうだったかもです……そ、それはそうと、リウちゃんとはどこで知り合ったんです?」
「ログナが放置してあった拠点にリウが棲みついていたんですよ。そこに不明の襲撃に遭って助けたら、味方となっていただけに過ぎないというか」
「え、どうやって助けたんですか? エンジさん、魔法とか使えましたっけ?」
「体が頑丈なので、盾になっただけですよ。レシスも見た通り、炎の中に突っ込んでも何ともないし」
「そ、それもそうですね。なるほどです!」
今の説明で納得したのか。
レシスはザーリンが警戒するような子には到底見えないが、古代石の杖はともかく、レシス本人に触れてみないことには危険かどうかの判断はつきにくい。
「フェンダー」
「ん? どうかした?」
「……あなたはまだ魔法を知らない状態。コピーで作ったオークも、あくまで魔法を使ったにすぎない。これから目に見えるもの、触れられるものは全てコピーする」
「向かっている都市国家には、コピーするモノがたくさんあるの?」
「コピーすることで、あなたは強くなる。魔法を増やし、国づくりの知識も増える。そして敵も増える……」
「え?」
今でさえしつこい勇者が襲って来るのに、コピーする過程の中で、新たな敵が増えてしまうのだろうか。
そんな不安を抱えながら歩き続けていると、道の片側だけに流れていた川の幅が横に広がりを見せ、土埃が舞っていた道は途切れていた。
「エンジさん、道が湖に沈んでいます……ど、どうすれば進めるんでしょう?」
「ほ、本当だ……何でこんな急に」
「にぁ~~泳ぐしかないのにぁ?」
「ネコが泳ぐなら、ネコだけ泳いでいい」
「むむぅ……泳がないにぁ!!」
目指している都市国家は、湖上に浮かぶとザーリンから聞いていた。
まさかこんな道の途中で、道が沈んでいるとは。
「どうやってこの先に?」
「あなたのスキルを使えばいい」
「俺の? 何かあったっけ?」
「……毒で腐食させて水を
「あ、そうか」
「でも本当は別の魔法がいいけど、早く覚えて」
「う、ごめん……」
湖上の都市国家なら舟くらいあっても良さそうなのに、魔法でしか入国出来ないとか、そういう意味では防衛力は高そうではある。
えーと、
本来であれば、乾燥させるくらいの火力魔法で水を干上がらせるのが最適なわけだが、炎の魔法は今の時点では火花程度しか使えない。
炎を全身に浴びてもその程度ということは、火の属性は他の属性よりも覚えにくいのだろうか。
魔法も段階的な成長が必要なのだとしたら、コピーしまくらないと駄目なのかも。
「えええっ!? み、水が腐って涸れている?」
「心配ない。水深も深くないし、そのうちに回復する」
「そ、そうなんですか、エンジさん?」
「そ、そうそう!」
都市国家の人々には申し訳ないと思いつつも、道を確保して何とかタルブックのゲートにたどり着くことが出来た。
『お前たちは何者か?』
ログナの中枢でしか見たことが無い大量の兵たちが、俺たちの眼前に立ちはだかる。
話に聞いていた通り、防ぎの都市国家というのは間違いないみたいだ。
門の近くには警護兵の詰所が見えていて、防衛の力をまざまざと見せつけている。
「か、観光者です」
『……旅の者か。船着場からの連絡は無いが、まぁいい。旅の者。湖は現在、警戒中につきしばらく出国出来ない。しばらくここに滞留せよ!』
「ど、どうも」
警戒? まさか水を涸らせたことだったりしないよな?
「入国出来ましたね! それにしても水が腐って涸れるなんて、偶然でも幸運でした!」
「にぅにぅ! 泳がなくて済んだにぁ」
直接魔法を見せたわけでは無かったから、リウとレシスには俺の仕業ということは気付かれなかったようだ。
しかし腐食による水涸らしで、国家都市の警戒心を上げてしまったのだろうか。
「……バレなければ問題ない。どのみち敵と出遭う運命」
「そ、それならいいけど。と、とにかく、宿を探そう」
「それなら、フェンダーは別行動をする。ネコたちと別。その間に城を見て来ていい」
「あ、うん」
最近は単独行動をしていなかっただけに、多少の不安を感じてしまったが、こうなれば出来るだけコピーをしまくって、スキルを上げることにするか。
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