第11話 ゆめのなか

誰だって、幸せな夢は見ていたいものでして。

つらい夢なんて見ていたくはなくて。

だってそうでしょう。誰が好き好んで、つらい方を選ぶと言うんですか。

ここはたぶんわたしの精神世界だなぁ、と気付いたのは少ししてから。

お父さんとお母さんが二人一緒に幸せそうに微笑んでいた。

その中心には赤子。ゆるく目が開く。その瞳はあまりに鮮やかな――紅。

紅い瞳を持って生まれたから『紅羽』と名付けたのよ、と母は嬉しそうに笑っていたのを今でも覚えている。

母親の瞳の色とも、父親の瞳の色とも違うその『紅い色』は、両親ともに祝福と言う名の呪いを受けているからだろうか?


母親は神から賜りし『神嫁』という祝福を。

父親は怨霊から『呪詛』という呪いを。


どうしてそうなったのか、視ようと思えば過去でも視れた。一ヶ月違いで生まれた空海から「それはきっとしてはいけないことだよ」と諭されたから、しなかったけれども。

一ヶ月、空海の方が先に生まれている。

わたしの肉体は高校生の辺りで時間が止まって、五十年になる。

普通に過ごしていればそこそこのマダムだろう。

でもわたしの肉体は年を取らない。

それが、わたしが生まれた時にこの世界から課せられた業。

それでも良かった。

大好きなお父さんとお母さんが居たから。決してわたしより先に死んでしまわないと知っていたから。


でも、時折思う。


もしもわたしが霊感も神力もない、寿命のある普通の女の子だったなら。

普通に友達を作って、普通に恋愛して、普通に結婚して、普通に子供を生んで、普通に死んだのだろうかと。

そんな普通を夢想しては、今の自分を見つめる。

これで良かったのだと納得をする。した気になる。

今あるものを大切にしなくては、それこそ罰当たりな気したから。


でも、ダメだね。

広也さんに出逢ってからわたしはなんだかおかしいんだ。

広也さんが他の女の子と居るとすごく胸が苦しくなるし、広也さんが「紅羽ちゃん」とわたしの名前を呼んでくれると、すごく嬉しくなる。

きっとこれが恋なのだと気付いたけれども、わたしには広也さんに恋する権利も資格もない。


だってわたしは、広也さんと同じ時間を生きられないから。


広也さんにそんなことを告げたら困らせてしまうから。

だからそっと胸のうちに秘めておこう。

そうしていつか広也さんが死んだ時にでも告げてしまおう。

それまでこの関係が続いているかは、分からないけれども。

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