第4話 焼き芋いっぱつ
「秋と言えば焼き芋ですよね!」
「……そのっ、落ち葉を……っ、拾ったのは……っ、オレだけどね……!」
「はい、ありがとうございます。お陰様で美味しい焼き芋が焼けますねぇ」
「今時落ち葉で焼き芋なんてよく焼こうと思ったよね。オレは買ったのしか食べたことないや」
「広也さんは美味しいものを知らな過ぎです!」
「ええ、そう言われてもなぁ……」
ポリポリと頬を掻きながらオレはうーんと考える。
紅羽ちゃんに言われて気付いたけれども、そう言えばオレは買った焼き芋も外れしか引かなかったなぁ、と思い出す。
何故か生焼けの芋とか、逆に焦げすぎて不味い芋とか……正直オレは焼き芋にはいい思い出がない。
だけれども、紅羽ちゃんが楽しそうにしていたから。
(紅羽ちゃんが楽しそうだとオレも嬉しい)
何故ならオレの不幸体質は紅羽ちゃんの機嫌にかかってるからね!
紅羽ちゃんの機嫌が悪いとオレの不幸体質が加速するからね!
なんでだろう!?でも出来たら機嫌よく居てね紅羽ちゃん!
「ナニを考えているんですか広也さん?」
「な、なんでもないよ!」
「ふぅん、そうですか」
「っう、なんだか悪いことしてる気分……」
「悪いことしてるんですよーだ」
「……ふふ、」
「なんですか」
「いや、なんかそうして見ると紅羽ちゃん年相応の女子高生なんだなぁ、って」
「年相応……ですか」
「ん?どうかしたの?紅羽ちゃん」
「いえ、広也さんにはわたしがどうやって視えているのかなって」
「どう、って」
どうやって視えているか?
そう言われてもオレにはただの霊感チートな高校生にしか見えないし……。
それ以外に何に見えたら紅羽ちゃんは満足するんだろうか?
オレは紅羽ちゃんの言葉の真意を問いたくて、首を捻る。
それでもよく分からなくて、結局答えは出ないままに。
なんでもなかったかのような顔をする紅羽ちゃんは焼けた落ち葉の中から新聞とアルミホイルで巻かれたサツマイモを取り出した。
「はい、広也さんの分ですよ」
「あ、ありがとう……」
「なんですか?そんなに警戒して。大丈夫ですよ。生焼けでも焼け焦げても居ませんから」
「そんなの見た目じゃ分からないし」
「大丈夫ですから」
ほら、食べる!
そう言った紅羽ちゃんはオレの口にアツアツの焼き芋を突っ込んだ。
あっついよ紅羽ちゃん!?
そんな脳内の叫びは無視をされているかのようで、これはこれである意味不幸体質を発揮してしまったのだろうかとも思ったけれども。
口の中に広がっていく甘味に目を見開いた。
「おいしい……」
「そうでしょうとも」
「こんなに美味しい焼き芋はじめて食べたよ」
「ふふ、喜んでもらえたようで何よりです」
紅羽ちゃんはその金色の瞳を柔らかく歪めながら自分の分の焼き芋に息を吹きかけて食べていた。
……って、あれ?
「オレには焼き立てあつあつを突っ込んだくせに!自分はしっかり冷まして食べるだなんて!」
「……なんのことです?」
「酷いよ紅羽ちゃん!目を逸らしながら笑いを堪えないで!」
「いっそ笑って欲しいんですか?」
「違います!」
全力で否定をしたけれども、紅羽ちゃんは結局笑っていた。
「紅羽ちゃんの馬鹿!」
「そんなことわたしに言っても良いんですか?」
「嘘ですごめんなさい」
「わぁ、綺麗な土下座」
感心するような声のあとに「やめてくださいよ、わたしが変質者だと思わるじゃないですか」と付け加えられてオレのライフはもうゼロだよ紅羽ちゃん……。
「まあまあ、広也さん。お芋さんが冷める前に早く食べちゃいましょ?ね?」
「……焼き芋に悪意はないもんね」
「そうですよ!焼き芋に悪意はゼロです!」
「もー、仕方ないなぁ。オレがこうやって騙されてあげるのは可愛い女の子だけなんだからね?」
「おやまあ、わたしを『可愛い』と思ってくれているんですか?」
「え、だって紅羽ちゃんは可愛いし」
「そうですか、そうですか」
「紅羽ちゃん……?」
そう言ったきり、紅羽ちゃんは焼き芋を食べはじめてしまった。
オレの問いには応えずに。
思えば紅羽ちゃんはオレが吐く言葉を真剣に受け止めていない気がする。
まあ、それが何か重大事項に繋がるとかではないからいいんだけれども。
「なーんか、ヤだなぁ……」
うん。紅羽ちゃんに言葉が通じないのは、なんだかとても、嫌だなぁ。
やっぱりオレ……。
「紅羽ちゃんのことが好きなんだね」
「は?」
「うん?どうかした?」
「今のは無意識化の言葉ですか、そうですか……」
「ナニぶつぶつ言ってるの?焼き芋冷めちゃうよ?」
「食べますよ、まったく。広也さんは馬鹿というかなんというか」
「知ってる紅羽ちゃん?馬鹿っていう方が馬鹿なんだよ?」
「ええ、知ってますよ?」
「なんだか負けた気がした……!」
「広也さんがわたしに勝てると思わないでください」
そう言って紅羽ちゃんは綺麗に笑った。
なんだかその顔が氷でも張り付いてしまっているかのような冷たさで。一瞬。本当に一瞬、ゾッとした。
けれどもすぐに紅羽ちゃんはその顔をあたたかな笑みに変えて、オレに次々と熱々の芋を渡して来たことによって、忘れてしまった。
今思えば。きっと。
忘れようと、本能が働いたのかも知れないね。
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