the frog
ぺんぎん K
二日後酔い
ある精神病患者がいた。
その患者は自分をカエルと勘違いし、ぺたぺたと酒を飲むのであった。彼にとってアルコールこそが川の水であり、両生類とはいえ、いや両生類だからこそ、人間社会で生きるには常に水分が必要らしかった。
このところ男は、アルコールを禁止されては叫び続け、叫ぶ気力もなくしたと思ったら力尽きて倒れてしまうという生活のくり返しで、ナースの一人を逆に精神的に追い詰めてしまうほどである。この患者に手を焼いた医師は、ある一つの決断を下した。病院で彼が叫ぶのも今日が最後である。早ければ夜にも力尽きるであろう。午後7時、カエル男はこれまで見たこともない、できそこないの子供を憐れむような医師の視線と壁の灰色を網膜に焼き付け、気を失った。
とうとうカエル男を治す治療法が完成したのである。
それから二日間ほど、こんこんと彼は眠り続けた。
水の中を泳いでいる。自分はかえるさんなのに、どうしてみんなみたいに水かきがないんだろう。こんなに泳ぐのが上手なのに、どうして歩かないといけないんだろう。どうしてベッドの上でしか泳げないんだろう。
げろげろげろげ
げろげろげ
泳いでいる、かえるさん。ずっとここにいられたらいいのにな。汚い人間と一緒より、ここのほうがずっとらくなのにな
どうしてだろう
げろげろげ
国内最大級の大型病棟に運ばれて、クランケの情報と寝言をもとに新しい担当医は言った。
「やっかいなアル中ですな。彼が起きた後で治療を始めるまでどうなるか、責任は取りかねます。」
「それでもいいのです。うちの病院よりかはずっといい装置がそろっている。お願いです、もう我々ではどうにもならんのです」
ひどくやつれた元担当医は懇願した。
特別な治療を施された後、カエル男は目を覚ました。
おはよう、とりあえず今日からここで暮らしてもらう。と一言告げられたが、そんなこと彼には構わなかった。そんなことより重大な真実が彼を貫いた。
夢をみたようだね、話してもらえるかな。
げろげろげろ
男は吐いた。急に吐き出した。医師は大声で患者を呼び、とりあえず男の背中をさすった。
げろげろげろげろげろげろげこぉ
かえるの断末魔が響いた。
アルコールの中を泳いでた。いつからだっけ、自分はヒトだったのに。げこげこげこおお、げこげこげこお
どうして水かきが生えないんだろう、いっそカエルにでもなれば
合計三袋吐いた。人間の体は50%が水分らしいが、それも真実かもしれない。カエルよりも両生類してるじゃないか。
ひとしきり吐き終わった後男は笑った。
the frog ぺんぎん K @kawarasoba
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