第8話 異能
「おはようございます!宮本さん、藤堂さん」
朝から元気良く挨拶する六華に2人とも面食らった。
「ああおはよう。やけに気合いが入っているな。それと下の名前で良い。」翔の言葉に六華は頷いた。
「はい、翔さん。ほんの少しですが、前進したのです。気合も入るというものです。」
「まあ覇気が無いよりかは全然良い。六華、今後の方針について話す。そこで少し待て。あっ、俺も下の名前で良い。」
蓮がコーヒーを入れながら言う。六華は返事をして、ソファに座る。5分程で手に書類の束を持った蓮が戻ってくる。
「さて、まず方針だが、当面の間は俺たちの依頼をこなしてもらいながら情報収集に力を入れる。幸い、仕事はこの周辺に集中している。手がかりはそのロケットで間違いないんだな?」
「はい、このロケットに刻まれているのと同じ花が研究所にマークとしてあるようです。そして鍵にもなると教えられています。」
「了解だ。とはいえ闇雲に探すのは効率が悪い。何かいい手はないものか…」
蓮が少し考えている中、翔が六華に質問する。
「そういえば六華、君のお父さんは親しい人にスペリオルを作っていたんだよな。その人物に心当たりはないか?」
「すいません、会った事はなくて。あっでも軍に友人が居ると聞いた事はあります。」
「軍か、それなら都合が良いかもな。依頼は軍からのものが多い、依頼者からさりげなく聞いて回るか。そういえば、六華のお父さんの名前を聞いてなかったな。何て名前だ?」
「立花龍司(たちばなりゅうじ)、それが父の名前です。」
「立花龍司、OKだ。依頼人とは俺が話す事が多い。こっちの情報収集をやるから、蓮と六華は外を頼む。」
『「了解」「了解しました」』
「方針が決まったら次は六華の能力についてだ。カルマの養成学校に通ったわけではないんだろう?その必要性も感じないしな。」
「はい、全て父に調整してもらいました。」
「だろうな。武器は昨日見せてもらった短剣だろうから、能力を教えてくれ。」
「分かりました。私の固有能力は「未来予知」です。実際にお見せしますね。」
六華が少し目を瞑ると、右目だけが黒く染まった。
「この右目を発現中は、見た相手の行動が最大5秒後まで予知できます。正確には最大5秒後までの行動が軌跡になって見えるというものです。」
六華は翔を見る。すると
「翔さんはコーヒーに角砂糖を2個入れます。」
翔は驚いた。自分の行動が読まれたのだ。
「すごいな。確かに今砂糖を2個入れようと思った。俺が入れる砂糖の数まで分かったのか。」
蓮も同様に
「確かに凄まじい能力だ。戦闘でのアドバンテージは計り知れんぞ。」
「しかし、弱点もあります。まず見えない範囲、死角からの不意打ちには対応できません。それと脳への負担が大きく凄く疲れます。スペリオルによって最大10秒近くまで未来を見えるようになりますが、めったな事では使いません。普段は身体強化のブーストの為に使用してます。」
「それでも十分すぎる程の力だ。これならお守りはしなくて済みそうだ。」
「でも、私憎魔との戦闘経験はあまり多くなくて、分かっていても身体が対応できない事もあるかもしれません。」
「その時は俺が守るよ、徐々に慣らしていけば良いさ。」
蓮は六華の能力が予想以上に優れたものであった為、かなり機嫌がいい。気軽に守ると言ったのだが、六華は少し顔を赤らめて、小声でありがとうございます…と言った。隣で翔がニヤニヤしていたが、あえて見ないようにした六華である。
「では、俺の能力についても教えておく。」
そういって蓮は空き缶を手のひらに持った。
そして次の瞬間、みるみる潰れていく。最後はクシャクシャに丸められた紙くずのようになった。さらにそのまま宙に浮いている。
「俺の力は、『重力操作』だ。任意の範囲内の重力を操れる、方向も自由だ。先ほどは中心に重力を集めた。また触れた物体の重力も操れる。」
六華はこの能力を見て多少恐怖を感じた。生物が先ほどの空き缶のように潰される光景を思い浮かべてしまった。
「もちろん、これも相手にはよっては抵抗される。特に中心に重力を集めるのはしんどい。全方向の操作が必要だからな。」
そう言って空き缶の操作を止めた。
「お互いの能力も確認したし、そろそろ仕事の話だ。翔」
翔は机の上に1枚の紙を置いた。
「今回の依頼も軍だ。内容は憎魔の調査だ。ここ最近Lv2の目撃情報も増えてきたが、さらに憎魔の不審死も増えてきたらしい。まるで何かに食べられたような痕跡も複数見つかっている。奴らは共食いはしないはずだが、原因を調べて欲しいとの事だ。」
蓮は資料に添付された情報を見る。
「なるほど、調査に向かった軍の調査班も行方不明と。やはり何かこの付近で起こっているのか。六華、今回の仕事に同行してもらうが問題あるか?」
「大丈夫です。不安はありますが、これで逃げるわけにもいきませんから。」
「なら早速準備して向かうぞ。」
「はい!」
そうして準備を始める蓮だが、1つ気になった。
「六華、その格好で行く気か?」
彼女は出会った時の黒ゴスロリ風のワンピースを着ていたのだ。
「だめですか?そんなに動きづらくはないですよ?スカートもそんなに長くないですし。」
「出来れば着替えた方が良いな。その格好は目立つ。」
「結構気に入ってるんですが…分かりました。更衣室はありますか?荷物は全部持ってきましたので。」
「ああ、奥の個室を使えば良い。ところでなぜ荷物を全て持ってきてるんだ?」
「え?だって今日から此処に住み込みですよね?2階の部屋も余ってるみたいですし。」
蓮と翔は沈黙した。職場兼とはいえ、年頃の少女が男2人が住んでいる場所に住もうとするか?という疑問が出てくる。
「中々肝が据わっているな。普通男2人と一緒に住もうとは思わないんじゃないか?」
「会ったばかりですが、お2人は信用できると思ってます。これでも人を見る目はあるんです!」
その自信はどこから来るのか甚だ疑問だ。
「それとも、私に何かするつもりですか?」
少し後ずさりしながら失礼なことを言ってきた。たしかに六華は贔屓目なしで見ても美人だとは思うが、蓮はすかさず反論する。
「残念だが、俺は子どもには興味無い。ご期待に添えなくて悪かったな」
「私は子どもじゃありません!もう18歳です!」
六華は怒り気味に2階に上がっていった。
それを見た翔は蓮に笑いながら話しかけた。
「おいおい、あんまりからかうなよ」
「そうだな、面白そうだったんでついな。」
それから少し時間が経ち、六華が着替えて降りてきた。動きやすそうなショートパンツに半袖姿だ。
「準備できたな、でだ向かうぞ。」
「…はい」
何か不満そうだが、まぁいいかと蓮はすぐ切り替える。翔は感想を言って欲しかったんだな…と思ったが口には出さなかった。
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