第6話 黒の少女
「翔、今片付けた。これから帰還する。」
「資料は無事だろうな?」
「ああ、問題ない。」
「そうか、なら良い。先方には回収に成功した旨を伝えておく。それじゃ後でな」
そう言って通話を切る。
「そういえば、京香にサンプル回収を頼まれてたな。」
Lv2憎魔の飛ばした頭部に近づき、京火から受け取った注射機器を突き刺した。すると血液がシリンダー内を満たしていく。憎魔細胞のもっとも濃い場所、それは脳だ。細胞回収はこうして脳から採取するのが一番好ましい。これがカルマなどの武器に使用されるのだ。
回収を終えた蓮はバイクに乗り帰路に着く。
そのころ要塞都市内の事務所で翔は先方に連絡を取り回収に成功した旨を伝えたところだった。
「今回もうまく言ったな。あとはあいつの帰りを待つだけか。」
ひと段落ついた翔は息抜きにコーヒーを入れ堪能していた。手の書類を見ながら次はどの依頼を受けるか吟味していたところ…
コンコン…玄関ドアがノックされる。
立ち上がりドアに近づいていく。開けるとそこには黒のゴスロリ風ワンピースを着た1人の少女がいた。翔は少し驚いた。ここに尋ねてくるのは軍や研究所の人間か、京火が依頼に来る時くらいだ。それに、この事務所はお世辞にも綺麗とは言えない。女性であれば尚更来づらい。
(さて、どうしたものか。どこかのご令嬢か?)
思案していると、少女が口を開いた。
「はじめまして。私の名は
翔は一瞬眉を顰めたが、すぐ平常に戻す。
「生憎彼は外出中でね。それで、どういったご用件で?」
「依頼をお願いしたいのです。」
翔はなんとなく厄介ごとの匂いを感じ取ったが、そんな理由で門前払いも出来ないなと思い少女を中へ通した。
「恐らく、30分もすれば帰ってくるとは思うよ。良ければ先に依頼内容を聞こうか?それとも戻るまでここで待つかい?」
「そうですね。ではお言葉に甘えて、戻るまで待たせて頂きます。お2人揃ってからの方が説明の手間も省けると思いますので。」
「分かった。ではあちらの部屋の待っていてくれ。」
六華を別部屋に通し、自分のデスクに戻った。そして蓮が戻ってくるのを待った。
そして、およそ30分後に蓮が戻ってきた。
「蓮、戻ってきたばかりのところ悪いが可愛らしいお客さんがお越しだ。」
「珍しいな、俺に用があるのか?」
そう言って、窓ガラス越しに奥の部屋に目をやる。そして件の少女を見るとやはり首をかしげる。
「お前の知り合いってわけでもないんだな。」
「ああ、まったく記憶にはない。」
「やはりそうか。まぁ良い、さっさと話を聞いてみるか。」
「だな」
2人は少女の待つ部屋に入る。
少女は蓮を見る。蓮も目線を合わせるが気にせず対面の席に座る。
「はじめまして、俺の名前は宮本蓮。よろしく」
「私は
蓮は少し嫌そうな顔をしつつ答える。
「ああ、確かにそう言われているが、出来ればその大層な呼び名は控えてくれ。俺が自分で言い出したわけでもないんだ。」
「失礼しました。」
「それでは早速本題に入ろう。君の依頼を聞かせてくれるか」
彼女は少し間をおき、覚悟を決めたような表情を見せる。
「依頼というのは、私の父の憎魔研究所を見つけて欲しいという内容です。けれど、場所はこの旧東京付近ということしか分からなくて。あと、その…」
彼女は言いづらそうに口を紡いだ。
「これはお願いなのですが、私をここで雇ってください!」
すると翔が口を開いた。
「色々と聞きたいことがある上に、唐突過ぎていまいち要領を得ないな。落ち着いて説明してくれるか?」
「すっ、すみません。依頼内容は先ほどお伝えした通りなのですが、この区域にあるという情報以外本当になにも無くて。手がかりといえばこのペンダントくらいで。」
彼女は懐からロケットペンダントを取り出した。外枠には花の彫刻が彫られている。
「なるほど、確かにそれだけでは探しようがない。」
今度は蓮が口を開く。
「それで、雇ってくれというのはどんな理由ががあるんだ?」
「実は、このような時間のかかる内容なのに、満足にお支払いできるお金を持ち合わせていなくて。そうなると、もう私自身を売る事くらいしか出来なくて…」
少しの沈黙のあと、蓮が答えた。
「では率直に言おう、断る。」
「どうしても…ですか?」
「現状、厳しいな。」
「お願いします! 雑用でも何でもします! 無給でもいいです!」
鬼気迫ったような表情に少し驚いたが、彼女がここまでする理由が気になった。
「分からん。君がそこまでする理由は何だ?君の父親の研究所に何があるんだ?」
「それは…」
「言いづらい事情があるのかもしれんが、こちらは君がどんな人物か、どんな目的があるのか一切わかっていない。それで雇う事などできはしない。それに、分かっているとは思うが俺たちの仕事は常に危険が伴う仕事だ。憎魔と戦う事が多いからな。」
「全て話したら、雇って頂けるんですか?」
「内容によるが、検討の余地があるかもという程度だ。それと、君の力についても話してくれ。」
「!!気づいていたのですか。」
「こちらも長いことカルマやってるんだ。相手がカルマかどうかくらい、見れば何となくは分かるさ。」
六華は覚悟を決め、言葉を発する。
「分かりました。全てお話しします。」
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