白の魔人と黒の花
川平織
黒の花
第1話 プロローグ
この世界はとことん荒廃していた。
人間同士の戦争が終わらず、自然は破壊され動物達は死に絶えていった。
しかし、今から約200年前、神の天罰が下ったの如くその化物達は姿を現した。
その化物達は後に「憎魔(ぞうま)」と呼ばれている。
どのように生まれるのか、どこから来たのか一切不明。
人間を遥かに凌駕する強靭な肉体に加え、鋭い牙や爪、さらには火や水、雷、風に至るまで、あらゆる自然現象をその身一つで巻き起こす個体も存在する怪物である。
当然、人間は近代兵器で応戦するが、憎魔の圧倒的な力で瞬く間に蹂躙されていった。
人類滅亡の危機を感じた人間は、そこで初めては手を取り合った。
しかし、人類の兵器を用いた攻撃手段がほとんど通じず防戦一方、
出来るのは時間稼ぎが精々だった。人類は要塞都市を建設し、そこで「憎魔」を撃退する手段を模索した。
その結果生まれたのが、「憎魔」から抽出される「細胞」を使用した異能者の発現と武器の作成である。当時の一流の科学者達が集まり日夜研究は続けられた。
そうして生まれたのが、異能を扱う人間を超えた人間「カルマ」と、憎魔に非常に有効な武器「スペリオル」である。
カルマの奮闘、スペリオルの量産、少しづつだが人類は生活圏を取り戻していった。さらに様々な科学も発展した。窮地に追い込まれた人類は死に物狂いで技術革新を進めていったのだ。燃料を使用せずに走る車、自動学習する最新鋭のAI、映像を何もない空間に投影する機械などなど…。
いつの時代も技術を発展させるのは戦争であるというのは、なんとも皮肉な話ではあるが。
しかし、それでも人類の生活圏は各地の要塞都市内だけである。街の中は近未来都市、外に出れば森や荒野、捨てられた街などが広がっているという歪な世界が出来上がって行った。
これが、200年前の出来事である。
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「はぁ、ここまで来ればあともう少しね。」
誰も住んでいない、朽ちたゴーストタウンで1人少女は呟いた。
フリルの付いた黒のワンピースに、ワインレッドのリボンが目立つ。
まるで貴族のお嬢様風の服装であった。
幼さは残るが、黒髪ロングの大和撫子といった容姿も際立っている。
憎魔が闊歩する都市外にいるには、あまりにも異質な風貌である。
「本当にあの都市にいるのかしら。ここまで来て無駄足なんて事になったら…」
不安そうな表情をし、物思いに
グオオオォォォォ!!と声が聞こえ、少女が振り返ると熊型の憎魔がそこにいた。
このまま見逃してくれないかと、一瞬そんな考えが頭をよぎったが、そんな事はありえないと頭を振りすぐ考えを改めた。
「大丈夫、大丈夫…」
短剣を抜き出し覚悟を決め、小さくそう呟きながら、迫り来る敵に少女は立ち向かっていった。
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