忘却
結局、かのは見つからなかった。
登校したたけるは、かののことを一日中考えていた。
かのは一体何者なのか、どこから来たのか、どうして僕の部屋にいたのか…考え出すときりがない
ひょっとして僕は夢でも見ていたのか…
「忘れよう…」
そう決めたのは学校の下校中だった。夕暮れ時は気持ちを落ち着かせてくれるから好きだ。
今朝はあんなに慌ててかのを探して時間がなくなり走って学校に向かったのが、今はとてもゆるやかに時間が流れている気がする。
「たけるが望むなら来る…」確かにかのはそう言った。
あれはどういう意味だったんだろう…
(いや、忘れよう!)
「ただいまー」
「おかえりー」
僕は部屋に戻り気持ちを切り替えた。
「よし!」
僕はパズルが好きで家に帰るといつも遊んでいる。穴の開いた箇所にピースをはめていく瞬間がとても心地いい。
それに加えて完成した時の達成感といったらたまらない。
何か悩んでいる時や嫌なことがあってもパズルでだいたい忘れられる。
今日は何のパズルをしよう…アニメイラストにしようか、東京の夜景も捨てがたい。
「ん?…こんなパズルあったっけ?」
クローゼットを見てみるとなにやら身に覚えのない古そうなパズルがある。
それは様々な妖怪が一面に描かれたパズルだった。
「3000ピース!?…ちょっと大きすぎないかな?」
少し不気味だったので母に聞くことにした。
「お母さん、このパズルどうしたの?」
「あーっ、これねー!昔たけるが欲しいって言ったから買ったのよー
あんまり大きいからお母さん絶対できないって言ったんだけどたけるが それでもほしい ってお店で泣いちゃってー」
全く憶えていない出来事だった。
「でもこの間までクローゼットになかったよ?」
「押し入れ整理したらでてきたからたけるの部屋に置いといたのよ
あの時は結局買ったのにこんなの出来ないって投げ出しちゃったけど、
もうたけるも中学生だし完成できるかもね!」
今まで大きくても2000ピースのパズルしかやったことがなかった。
このパズルが完成したら自分の最高記録になる。たけるは部屋に戻るとさっそく箱を開けた。
「なるほど、確かにこれは難しいな…」
ピースを見たたけるはすぐにこのパズルの難しさに気づいた。
パズルのピースは通常凹凸があり、その凹凸がピースをはめていくヒントになるが
このパズルはすべてが正方形のピースでできていたのだ…
「これでは枠もわからないじゃないか…」
通常は枠のピースは外側の凹凸がないのでかなりのヒントになるのだがすべてが正方形のパズルでは通用しない。
こんなのだれが作ったんだ…どこで売ってたんだ
謎は深まるばかりだが、この難易度の高いパズルを目の当たりにしたたけるは
「絶対完成させてやる!」といつも以上に意気込んだ。
たけるは妖怪のことはさっぱりわからないがパッケージを見ながらなんとなく埋めていった。
が、全く完成できる気がしなかった。
「どうして…ここはここの隣じゃないのか…この部分のピースはどれだ…」
探しても探してもそのピースは見つからない。
「逆に考えるんだ。ピースを見てどの部分がパッケージのピースかを探すんだ…」
「・・・あれ?・・・嘘だろ!?」
ここでたけるはようやく気が付いた。パッケージのイラストとパズルの完成図が違うことに…
「無茶苦茶だこのパズル、完成させてもらう気がないぞ…」
「ご飯できたわよー」
(ひとまずご飯を食べて考えよう。)
食卓へ向かうと母がなにやらにこにこしている。
「今日はたけるの好きなからあげ揚げてみましたー!」
「ありがとう!でもどうして?」
「別に理由があるわけじゃないけど、もうたけるも受験でしょ?
これ食べて勉強頑張って!」
そうだ、来年から高校生になるんだ。今日学校で勉強が全然身に入らなかった。
今朝のことで頭がいっぱいだったからだ。あまり余計な事は考えずに目の前のことに集中しよう。
あの妖怪のパズルもほどほどにしないと…
「どうしたの?」
「んーん、勉強頑張るね!」
食事を終えるとたけるは部屋に戻り、妖怪のパズルをそっと片づけた。
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