第7話いけにえ。
俺、早乙女藤二郎は、早乙女家という日本有数の名家の息子だ。
使用人は当たり前にいるし、専属のもいる。
それは当然、俺にもあるわけだが…
「え!?ちょ、せ、刹那ちゃん!?そ、その、禍々しい物体は何!?」
「新作の『不思議の国のアリス味メロンパン』ですけど。何か?」
「何か問題あります?っていう風な顔をしないでくれる!?え、それ、本当に食べて大丈夫なの!?」
目の前に広がる光景は、俺の専属メイドの1人である千紗が、同じく俺の専属執事である都華咲を馬乗りで押さえ込み、もう1人、またもや俺の専属メイドである刹那が、何やら奇妙な色合いのモノを持っていた。
ビニールの袋で個装されているのを見ると、多分、食べ物なのだろう。
そして、刹那が持っていて、新作、と言ったことから
「…購買の新作か…」
刹那の通う高校の、購買の新作と言ったところだろう。
あの学校は、意味不明な商品を出してくることで、俺たち早乙女家では有名だ。
入学して1ヶ月半ほどでこれだけ有名なのだから、卒業する頃には何があるかわからないと思う。
そう考えている間にも、袋が開けられ、刹那の手によってそれが取り出される。
それは…
「………???メロン、パン?」
「?おや、藤二郎様。いらしていたのですね」
あぁ、そうだ。声をかけるのを忘れていた。
ドアを開けたら都華咲が押さえられている光景だったから、つい。
「あぁ、すまない。声をかけるタイミングを伺っていたんだ」
「そうでしたか。こちらこそ、気づかずにすみません」
右手に袋。左手に中身である…メロンパンらしきものを持っている刹那。
少し頭を下げる動作は完璧なものだが、どうしても視線は刹那の手に行ってしまう。
「大丈夫だ。そんなことよりも、刹那がその手に持っているものは?」
「これですか?これは、今日の新作である『不思議の国のアリス味メロンパン』です。見た目は少し…結構禍々しいですが、味はまぁまぁいけますよ」
「…そうか」
不思議の国のアリス味…その通りなのか、そのメロンパンは、青、紫、ピンクなど。通常パンとしてはありえない色をしている。
というか、まぁ当たり前だが、これを刹那は食べたのか…。
「坊ちゃ〜ん!!助けてくださいよぉ〜!」
都華咲は涙目になりながらもがいている。
しかし、悲しきかな。千紗は体術が得意なのだ。きっと、上手く押さえ込んでいるのだろう。抜けられていない。
「都華咲…」
「はぁ〜い…」
「…刹那たちは俺でも止められない」
「坊ちゃぁぁぁん!!!」
毎度のやりとりだが、何度聞いてもこの絶望に満ちた叫び声は慣れないな。
と思いつつ、メロンパンと呼んでいいのかわからない物体を手に、刹那が屈む。
「刹那、口に突っ込みなさい。都華咲は今、お腹がすごく空いているわ」
「わかりました。千紗さん」
何なのだろうか。このメイド2人の見事な連携は。
いやもちろん、仕事でも見事な連携をしてくれるのだが、うん。
「(仕事とはまた違った意味で心が通じ合ってそうだな)」
「そいや!」
「むごぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
午後6時半。早乙女家の屋敷に断末魔のような声が響き渡った。
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