第4話苦労人
早乙女藤二郎には4人の専属の使用人がいる。
男女2人ずつで、4人とも藤二郎にとっては良き理解者であり、大切な家族だ。
幼少期から過ごしているし、屋敷で共に生活しているから、お互いの知らないことなどほぼ無いと思っている。
だが、たまによくわからないことをしてくる者たちがいる。
メイドの千紗と刹那だ。
2人とも、メイドとしてはすごく優秀だ。
分からないことがあっても上司に聞き、分かるまでやる。努力家な人間。
優秀…なのだが
「…………」
本当によく分からないことをしてくる。
いや、この場合はよく分からないもの、だろうか。
今、藤二郎がいるのは、昔藤二郎が子供部屋として使用していた、現在は藤二郎と使用人の5人で集まれるようにした、まぁ、休憩室のようなものだ。
中はシンプルな赤いカーペットが敷かれ、1人用と2人用のソファーが一つずつ。そしてクッションやぬいぐるみが置かれた場所と、漫画などが置いてある本棚。小さい冷蔵庫。
小さめのテーブル。
この小さめのテーブルの上に置いてあるものが問題なのだ。
「…驚異のサバンナ味…これで君も百獣の王に…?」
謎なサンドウィッチらしきものな上に、一口かじられたままの、食べかけ。
ーーえ、何。これ購買のものだろ?購買って言ったら刹那しか…え、アイツ百獣の王になりたいの!?ーーと、まぁ、藤二郎の頭の中は絶賛混乱中である。
そして、藤二郎の混乱はまだ続く。
ーーいやでも、刹那は小柄だし、でも強くなりたいって言ってたし、いやでもだからって百獣の王は…ーー
たしかに、刹那は身長が153㎝ほど。藤二郎や千紗たちの中で、いや屋敷の中で一番小さい。身長と、そして細い手足ということもあり、余計に小さく、そしてか弱く見えてしまう。
本人もそれは気にしていたらしいが…
と、考えていると
「藤二郎様、ここに居たのですね」
優弥がやって来た。
いつもの通り、優しいながらも頼れるような笑みを浮かべ、藤二郎の方へやってくる優弥。
しかし、藤二郎の隣まで後2、3歩、というところで優弥は止まり、ある一点に目が釘付けになる。
言わずもがな、サバンナ味のサンドウィッチである。
「サバンナ…え?サバンナ味…??」
「優弥、サバンナ味とは、一体…」
「え、これ…え、刹那の、ですか?」
「あぁ。多分そうだ」
「「………」」
2人が沈黙していると、ドアの向こう、廊下の方から話し声が聞こえてくる。
どうやら都華咲たちが来たようだった。
「あ、坊ちゃん、優弥さん!」
「おや、もう来ていたのですね。遅くなり申し訳ありません」
「……ぁ、サバンナ味」
「「!!!」」
上から順に、都華咲、千紗、刹那、そして藤二郎と優弥である。
明るく入って来た都華咲と、少し澄ました顔で入ってきた千紗と刹那。しかし、刹那は藤二郎の手にあるサバンナ味を見つける。
藤二郎と優弥は、(やはりお前のか!)という気持ちを込めて、少し驚いたように刹那を見る。
「申し訳ありません。そのサンドウィッチは私の私物にございます。着替える前に少し食べて、そのまま忘れていました。」
コツコツ、と歩いてくる刹那。そのまま流れるような動作でサンドウィッチを取ろうとする。が。
「あ」
藤二郎が手を頭の上に持って行き、どうあがいても刹那が取れないようにする。
そして、聞く。
「サバンナ味って、どんな味なんだ…」
そう聞いた藤二郎の目は、諦めと慈愛が混ざり合った感じだったと優弥は語る。
その後、刹那はサバンナ味を語り始め、気づいた時には十分が経過していた。
最後の締めに、刹那は言う。
「まぁ、宇宙味の方が宇宙宇宙してましたけどね。サバンナはサバンナサバンナしてます。百獣の王というより、太陽に照らされてる感覚になりますね」
サバンナサバンナしてるって何。
他4人はそう思っても聞かないことにした。
もう諦めたのだ。
___☀︎☁︎☀︎___
「あ、でも、今日はサバンナ味より驚いたことがありました」
「なんだい?」
「校長先生の頭に、動くアンキロサウルスの模型がありました」
「……………」
刹那の言葉に、もう何も思うまい、と決め込んだ藤二郎、優弥、都華咲、千紗の4人であった。
比較的自由過ぎるメイド2人であるが、一番自由なのは刹那だということを新たに実感した日だった。
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