桜が好きで好きで、春が来るのが楽しみでした。

 でも花粉症かふんしょうになって、春が、つらい辛い季節に変わり、お花見に行くのさえ億劫おっくうになってしまいました。

 桜切る馬鹿ばかというくらいだから剪定せんてい出来できない、大きくなるから庭植えしか出来ない、虫が付きやすいから手入ていれが大変たいへん等々などなど否定的ひていてきな事ばかり知って、手を出すことが出来ませんでした。

 たまたまホームセンターで、投げ売りになっている桜の木たちを見かけて、随分ずいぶん迷いましたが、思い切って家に迎えました。

 それから数年、私は、自信を持って言います。

 桜は鉢植えでも大丈夫です!

 ただ、種類は選んでください。

 大きくなる品種ひんしゅたとえば染井そめい吉野よしのなどは、さすがに鉢ではかわいそうです。

 お日さまが大好きです。

 うちで一番、上手うまくいっているのは、『鬱金うこん』です。

 数多かずおおい桜の中でも、黄色い花が咲く唯一ゆいいつの桜です。

 金運きんうんを招くめでたい木として昇仙峡しょうせんきょう金櫻かなざくら神社の御神木ごしんぼくになっており(うちの場合は……?)、清酒せいしゅ黄桜きざくら』は、この木にちなむそうです。

 園芸店でもあまり見かけない品種で、結局、今にいたるまで、二度と出会っていません。一期一会いちごいちえという言葉通り、まさに一度きりでした。

 馴染なじみのない品種が上手うまく育つかどうか不安で、最初の日は家に連れて帰りませんでした。この鉢一つだけポツンと取り残されて、やっぱりかわいそうだったかな、と思い返し、わざわざもう一度、店に戻って、連れてきました。結果的にはこれが一番、家に馴染なじんでいるのだから、わからないものです。

 葉っぱを少々、コガネムシにかじられたりしますし、センチュウが根に巣くったりもしましたが、結構、元気です。

 あまり大きくならず、鉢が小さくても文句もんくも言わず、形良かたちよく育っています。

 緑のつぼみから薄黄うすきの花が開き、なかべにが差し、花びらが桃色にまってくると、そろそろお仕舞しまいです。

 その他、『御殿場ごてんば桜』や、『楊貴妃ようきひ』など、あまり大きくならない木を育てています。

『楊貴妃』は、みきの途中でカミキリムシに穴を開けられて、思うように背が伸びず、先端せんたんが欠けてしまいましたが、一メートル弱くらいになったら落ち着いたらしく、沢山たくさん花が咲いています。

 つぼみはかわいいピンクで、瑞々みずみずしい緑の葉と共に、薄桃うすもも色の八重の花が開きます。

 綺麗きれいな緑色の葉っぱは、虫にとって御馳走ごちそうらしく、他の植物に先駆さきがけてかじられたりしますが、それでもしぶとく生き残っています。

 染井吉野は、江戸時代に作られた品種ですが、うちのは、万葉まんようはるか昔から、日本人に愛されてきた桜たちです。

 染井吉野は、花が咲いた後で葉が出てきますが、いにしえの桜たちは、花と若々しい葉が同時に出てきます。

 染井吉野が散る頃咲き始める、優しい風情ふぜいある桜たちです。

 桜の楽しみは年に一度きりですが、他の花と違い、ああ、また一年、めぐってきたのだ、と、区切くぎりを感じます。

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