初夏、藤

 藤棚ふじだなを作ってみたかったのです。

 近所のお寺の藤棚は、ゆらゆらと、沢山たくさんの紫色の藤の花房はなぶされていて、はちが眠そうにと飛んでいました。かすかに甘い香りがしていたように記憶しています。

 ぜひ、うちにも、と思って、一才藤いっさいふじの鉢を買ってきて、に植えたのが、間違まちがいのもとでした。

 待てど暮らせど、一向いっこうに花が咲かない。

 藤は気難きむずしくて、咲かせるのに工夫くふうがいることを知ったのは、二~三年たってからのことでした。

 つるばかり伸びて、その始末しまつ四苦しく八苦はっくした挙句あげく、やっと花が咲き始めたのは、さらに数年たってからのこと。

 ところが肝心かんじんの花は、太陽を求めて、日当ひあたりのいい隣の駐車場の方ばかり向いて咲きます。こちらからは、つるや葉が邪魔じゃまになって、全然見えない。

 おまけに夏になったら、つるあばれる暴れる、二階にまで昇ろうという勢い。ハサミで切ると反抗して、ますます大暴れ。古くなり、ねじれてからみ合った枝はかたくて硬くて、のこぎりを持ち出さないと切れないほど。

 それからは、冬、落葉らくようしてから、さっぱり切ることにしました。

 それでも、咲いた花の美しさに、全ての苦労を忘れてしまいます。

 虫も付かないし、病気にもなりません。

 藤のあまりの強さに、虫も病気も退散たいさんしてしまうのでしょう。

 去年、鉢を買ってきて、再挑戦しました。

 地面にろさなければ、与えられた環境で咲きます。

 今年は、直径十八センチの鉢に、十一もの見事な花房を付けました。

 鉢のサイズに似合わないほど、長い房で、さわるとポロポロ散ります。天井てんじょうからったり、上に置いてがるようにセッテイングすると、オシャレだし、藤にも負担ふたんが無くて良いでしょう。

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