処女懐胎!? マリアの息子に転生しました

ウロノロムロ

馬小屋のマリア

天涯孤独の少女マリア。


彼女は九年前の魔王軍襲撃で

両親を亡くしていた。


当時まだ五歳であったマリア、

両親の記憶も既におぼろげなものとなっており

両親の顔を思い出そうとしても

ぼんやりとしか浮かんで来ず、

ハッキリとは思い出せない。


マリアは両親がいないことよりも

大切な両親との思い出を忘れようとしている自分に

いつも悲しくなる。


『お父さん、お母さん、

どうして死んでしまったの』


マリアがそう思うことはしょっちゅうであったが、

それは決して口には出さずにずっと心の中に留めて置く。


今この戦乱の時代に

マリアのような孤児は沢山おり、

辛い思いをしている子供は自分だけではない、

マリアはいつもそう自分に言い聞かせていた。


-


マリアの父はなんでも

腕の立つ大工だったそうで、

宮廷大工の資格を持っていた程らしい。


現在マリアは

その亡き父の縁戚に当たり

大工仲間でもあった

叔父さん夫婦の家に住み込みで働かせてもらっている。


叔父さんは

天涯孤独のマリアを不憫に思って

家に置いてくれていたが、

そこの女房はマリアのことを

あまりよく思っておらず、

ことあるごとに辛く当たっていた。


「あんた、一体

いつまでこのごく潰しを

養わなくちゃいけないんだい?


早く娼館にでも

売り飛ばしておしまいよっ」


「おいおい、子供の前で

そんなことを言うんじゃないよ」


「何が子供なもんかね、

この子ももうじき十五だよっ?

もう立派な大人じゃないかっ」


マリアは叔母さんに

いびられる度にじっと堪えたが、

時には悔しさのあまりに

何も言わずに睨み返すこともあった。


「まぁ、この子は一体

なんて目で人のことを睨むんだろねっ、

そんな目付きをするなだなんて、

この子はよっぽど

性根が腐ってるに違いないよっ」


「きっと親の育て方が

よくなかったんだね、

子は親の鏡って言うからね、

きっと親もロクな人間じゃなかったんだろうよ」


マリアは親のことを言われて

つい頭に血が登り言い返してしまう。


「違いますっ!」


「まぁ、口ごたえするのかいっ!?

居候の分際でっ!


育っててもらってる恩も忘れて、

この恩知らずがっ!」


両親のことを侮辱され、罵られ、

目に涙をためて泣きそうになるマリア。


それでも絶対人前で泣かないと

心に決めていたので、グッとこらえる。



マリアはいつも馬小屋で寝ていた。


意地悪な叔母さんが家で寝ることを許さず、

マリアに与えらた寝室が馬小屋だったのだ。


でもマリアにとっては

嫌な叔母さんの顔を見ずに済むので

むしろ馬小屋の方がありがたかった。


マリアは毎晩のように

馬小屋に積まれた藁に顔を埋めて泣く、

泣いている声が決して漏れないように。


-


マリアは現在十四歳、

もうじき十五歳になろうとしている。


この世界では十五歳と言えば

結婚適齢期。


この異世界、戦乱の世である為、

人間の平均寿命は四十歳弱と

こちらの人間世界から比べると極端に短い。


ロクな医療が無く、

あっても高額な費用が掛かるため、

金持ちでもない限り

医者に通うことも

薬を買うことも出来ない。


乳幼児の生存確率が極端に低いことも

この世界の平均寿命を下げている原因ではあるが、

劣悪な環境の中では

やはり人間長くは生きられないのだ。


そのため、結婚適齢期も

それに合わせて下がって来ている、

人間という種の保存、

その本能がそうさせているのだろう。


その辺りは近代化される前の

日本や欧州と状況は似ている。



結婚適齢期であるとは言え、

マリアにはそんな伴侶となるような異性もおらず、

もちろんこれまで男女交際などもしたことがなく

まさしく純潔そのもの。


これまで生きるのに精一杯で

それどころではなかった

というのが理由の一つにある。


もう一つはマリアが

この世界に存在する神の敬虔な信徒であったため。


信仰の厚いマリアは

純潔のまま生涯を

信仰に捧げようという気持ちがあった。



そんなマリアにこの先、

数奇な運命が待ち受けているのだが、

もちろんまだマリアは知る由もなかった。






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