好きな映画を観に来たら隣にいたのは好きな人でした。

岬鬼

第1話 映画見に来たら気になる人が隣でした。


学校から帰る途中にある交番と駅から少し歩いたところにある映画館.......俺、五代 明は、映画を見に来ていた

とりあえず、目当ての作品のチケットを発券して、グッズ売り場でその作品のキーホルダーを1つ買った。その時だった。ある人物が目に入ったのだ。女子高生だ。何やら、グッズ売り場で女子高生が1人、店員と話していた。


「すみません!クモーマンのキーホルダーは無いんですか?」


「うーん、クモーマン?あぁ、一番人気だからな、売り切れちまったよ。たしかさっき高校生が買ってったので最後だ。」


「え?そ、そうですか.......」


「代わりなら、キャプテン・ラビットのとかあるけど?」


「いえ、クモーマンが良いんです。」


店員によって欲しい商品がないことを告げられ、しょぼんりとする彼女.......

この時はなんのやり取りをしていたのか、俺は遠目からだったので分からなかった。


「南條さん.......なにしてんだ?」


同級生の南條 あやみ、学校でもトップの美少女。


ふわりとしたボブカット、優しく開かれた瞳、通った鼻筋、その一つ一つが彼女の可愛らしさと美しさを兼ね備えた容姿となっている。

その整った容姿に惹かれた男は多く、彼女に告白した男は数え切れないほどいるという。

そう、数え切れないほどに.......つまり、未だに彼女と親密になった者は現れていないのである。

彼女の容姿に魅せられ、告白したもの達は皆口々にこう言った。

「彼女は誰にもなびかない。誰も彼女をものには出来ない。彼女は神聖な存在なのだ。」と.......。

気がつけば、彼女は学内で天使というか女神というかそういう立ち位置となっている。本人はそれを知らないが.......。

それが、南條 あやみという存在だった。


しかし、まぁ.......映画館のグッズ売り場で南條さんを見るとは思わなかった。

そんなことをぼんやり考えていると


『只今よりヒーローズリベンジ ご入場を開始致します。』


入場開始のアナウンスがかかった。


「いっけね、早く行かないと。」


俺は足速に、スクリーンへと向かった。


...................................


「お、今日は広めだ。」


スクリーンにたどり着くと俺は思わず呟いた。

スクリーンにはそれぞれ広さがある。

今日観る映画は、ずっと楽しみにしていただけあり、広めなスクリーンなのはとてもありがたい。


『ヒーローズリベンジ3』今日観る映画のタイトルだ。

この作品は、俗に言うアメコミ原作のヒーロー映画なのだが、シリーズは有に20作品を迎える。

10年を掛けて積み上げたストーリーの集大成とされる今作。

俺はずっと楽しみにしていたのだ。

そんな、ワクワクしている俺に声がかかった。


「すみません。隣よろしいですか?」


どうやら俺の座る席の奥に座りたいのだろう。

俺は足をどけてその人を通す。


「あ、どうぞ。」

「すみません、ありがとうございます。」

その時だ。

俺は声をかけてきた本人の顔を見た瞬間時が止まった錯覚を覚えた。

なぜなら、その声の主はさっきまでグッズ売り場で店員になにやら話していた女子高生、南條 あやみその人だからだ。


「南條.......さん?」


「ご、五代くん?」


どうして、南條さんがここに?この映画に?なんで?このシリーズ好きなのか?俺の隣?

俺の困惑は後を絶たなかった。


「南條さん、どうしてここに.......?」


思わずこんな質問をしてしまったが、映画を観る以外の目的なんてないだろうに、何を聞いてるんだ、俺は。


「えっ.......と.......」


ぎこちなく反応されてしまった。


その間に、南條さんは俺の隣に座った。

2時間、南條さんが隣にいるのか.......これは、映画に集中できるのか心配になってきたぞ。


...................................


それから2時間は特に何事もなく上映された。


映画自体はしっかり頭に入ってきた.......。観てる時は案外その世界観に浸れるものだ。

映画を観終わると俺は静かに余韻に浸るのだが、隣は違うようだった。


「はぁぁぉ!!」


南條さんは終わってからずっとこの調子だった。


そこに女神の面影などなかったのだから驚きだ。


「え?これで.......終わり?」


結論から言うと、この映画はヒーローの敗北で終わった。

気になる後編だが、来年の春に公開するらしい。

ファンは1年間お預けを食らうわけだが.......心配することは無い。


「.......後編は来年だけど、その前に2作品あるから。」

「え?.......そうなの?」


思わず呟いてしまった。

彼女はすかさず詰め寄ってくる。


「う、うん。多分後編で重要キャラになる映画だと思う。」

「へぇ!五代くん、色々知ってるんだぁ.......」


南條さんはそう感嘆の声をもらす。


なんだ、その笑顔!破壊力やばいよ。

俺は、南條さんが突然投げかけた笑顔に打ちのめされる前にスクリーンからの退出を促した。


「とりあえず、はやく出ないと。掃除の人来ちゃうよ。」


...................................


映画館から出ると、なんとなく一緒に帰ることになった。


「そういえば、五代くん.......私の事知ってるんだね。」

「まぁ.......ね。」


南條さんを知らない人なんて学校にいないと思うんだけど.......


「そういう南條さんも、俺のこと知ってるじゃん。」

「え?.......それは.......うん」


なんか、ハッキリしなかった気がする。

まぁ、それはさておき、俺は聞きたかったことを聞くことにした。


「南條さんも、HR《ヒーローズリベンジ》シリーズ好きなの?」


「..............」


「南條さん?」


「えっと.......く.......んが.......きで」


「え?」


「く、クモーマンが好きで.......」


クモーマン、それはヒーローズリベンジシリーズに出てくるヒーローの1人で、雲の力を使うヒーロー。正体は普通の高校生で、彼は力を授かった以上はその力に対して責任があると父から教わり、以来ヒーロー活動をしている。責任感の強いキャラクターだ。

そう言えば、南條さんグッズ売り場でクモーマンがどうたらって言ってた気が.......



「もしかして、グッズ売り場で探してたのってクモーマンキーホルダー?」


「な、なんで知ってるの!?」


「グッズ売り場でなんか店員さんと話してるの見かけて.......」


「そ、そうなんだ.......うん、クモーマンのキーホルダーが欲しかったんだけど売り切れてて。」


南條さんは、分かりやすく肩を落としていた。

よほど欲しかったんだと思う。

それなら.......


「はい.......」


「え?」


俺は、南條さんに自分が買ったクモーマンのキーホルダーを差し出した。

最後の1個を買ったのは俺なのだ。


「あげる。」


「これ.......」


「クモーマンのキーホルダー。」


「ほ、本当に?」


「欲しかったんでしょ?」


「でも.......」


「いいの、俺がそうしたいだけだから。」


そう言いながら俺は彼女の手にキーホルダーを渡した。

ここまですれば、彼女はキーホルダーを握りしめて受け取ってくれた。


「あ、ありがとう.......」


そんな彼女はすごく嬉しそうに思えた。

この顔が見れただけでもあげて正解かもしれない。

そうこうしているうちに駅に着いた。俺は足速に改札に向かう。


「じゃあ、俺はここで.......!」


「う、うん!また、学校で!」


南條さんは手を振ってくれた。


やがて、南條さんが見えなくなると。

俺は、ホッと胸を撫で下ろす。


「はぁ、不意打ち多すぎ.......」


変な風に見られなかっただろうか.......

まさか、自分の好きな映画を好きな人と観ることになるなんて.......


「俺、明日死ぬのかなぁ.......」


そんな独り言と共に俺は電車に乗った。


***


駅にたどり着いたところで彼は足速に改札に向かってしまった。


私は人前だというのもお構い無しに崩れ落ちる。


「不意打ちだ〜」


好きな人と映画を観る日が来るなんて.......思ってもみなかった。しかも、キーホルダーまでくれるなんて。


「やっぱりかっこいい.......」


不意打ち三昧で頭が働かない私は、そう呟くので精一杯だった。

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