バイキング

夢美瑠瑠

バイキング

       小説・『バイキング』




   88歳の老海賊、倭寇の梅木・無愚(ばいき・むぐ)は、今日も老骨に鞭打って、


略奪行為に勤しんでいた。


例えば、御朱印船を取り囲んで、火をかけて逃げられなくなった乗務員たちを


捕虜にして、金品を根こそぎに奪う。彼らにはお茶の子さいさいの日常的な


業務だった。彼をリーダーとする一団はマナーがよくて、


殺人などの血なまぐさいことはやらず、


「紳士の倭寇」と呼ばれていた。


魚食なので今でいうDHAを豊富に摂取するからか?無愚も、


矍鑠とした老人で、ボートをこぐ訓練をしているので足腰も達者だった。


彼は俳人でもあって、梅木愚無というこの名前は雅号なのである・・・


もちろん北欧のバイキングに由来していて、


しゃれっ気があって、手先の器用な老人である無愚は、


バイキング風の角の付いた兜とか、海獣のなめし革の衣装とか、


靴とか、そういうものを自作して纏っていて、貫禄付けにぼうぼうと髭を伸ばしている。


彼の詠んだ俳句や短歌というと、


次のようなものである。-


<夕陽落つ 孤城落日 涙落つ>


<孔孟の 教え遥かに 櫂削る>


<飛魚跳ね 地球は 円かなりぬべし>


<豪壮な 宴絶え果て ふと侘し>


<今日もまた 海の男と角逐し 日々の糧得る これが生業>


<海猫の 声と睡魔と潮の香と 華奢な女と熾烈な生と>


<赴くは 水平線の果ての果て 天下無敵の 我等海賊>


・・・


 そうしてしかし、そういう生活からも足を洗う日がやってきたのだ・・・


米寿を過ぎて、傘寿を迎える直前で、もう陸に帰ろう、


離れ小島にあるアジトも盟主の座を後進に譲って自分は引退しようという、


そういう境涯になってきた。船長室にある宝箱には様々な船から巻き上げた


厖大な数の金貨銀貨宝石財宝が蓄えられていて、


隠退してもまず生活に困ることはなかった。賄賂を惜しまなければ


奉行所やら岡っ引きに目をつけられもしまい。


9人いる息子のうちの最も若い逞しい辣腕の「五十六(いそろく)」を


アジトの頭目に指名して、自分は故郷の琉球王国に移り住むことにした。


「紳士の倭寇」で、文人でもある無愚は琉球の王様に厚遇されて、


さらに様々な異国の珍奇な宝物を献上したので、大臣に取り立てられて、


白寿である九十九歳まで海賊生活で養った知恵と処世術を生かして


現役で活躍して、幸福で数奇な生涯を全うした。・・・


「辞世」


<賊なれど 義はありぬべし 航海に 後悔はなく 吾は幸福>


<終>

 

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