第22話 探索者ホルスト 下


 レオンとしては素直に褒めたつもりだったが微妙な反応を示すホルスト。


 なにか気に障る点があったかと思い、レオンがホルストの様子を伺うように見るとそれに気付いたホルストが慌てて取り繕う。


「いや、すまんな。あんたが高く評価してくれたことには本当に感謝しているんだ。ただ俺は探索者としては才能も実力もなくてな。数年やってもパーティーも組めずに下の階層をうろうろしている三流なんだ。それでもなんとか評価を上げようと色々足掻いたうちの一つがその採取の仕方ってやつなんでそんな褒められたもんでもないんだ」


 そう言って苦い笑みを浮かべるホルストに困惑するレオン。

 となりに目をやるとナターリエも悲しそうな顔をしてホルストを見ている。

 どうやらナターリエの評価も同様でこれがギルドにおける一般的な評価らしい。


 聞いてみるとどうやらホルストは戦闘系のギフトを持っているものの武技系のみで付与系のギフトが使えないらしい。つまり前衛だけど火力が出せない。下層はいいとしても中層以降では攻撃が通らなくなるので将来性がないに等しく、パーティーメンバーとしての需要はほぼない。結果、下層でソロ活動をするしかない。

探索者ギルドでは才能がないというのは戦闘において優秀とされるギフトを持っていないということなのだ。


 レオンからするといい仕事をする優秀な探索者であるホルストだが、探索者ギルドでは三流扱い。

 確かに『才能』という一点においてはその通りかもしれない。

 ダンジョンに潜ることを生業とする探索者。

その目標はより深い階層に到達することにある。そうなると当然重視されるのは戦闘能力ということになる。

それに探索者は荒事が中心となる職種。自然とそういう性質の人種、要は脳筋どもの比率が高くなるためより評価が戦闘面に偏る傾向にある。


実際レオンも探索者になれば出来得る限りより深い階層を目指すつもりであるし、そうなれば自分個人はともかくとして、パーティーとしての戦闘能力が必須であることもわかっている。


しかしそれは探索者という職業を目指すうえでの一種のロマンのようなもので、あくまで探索者という狭い世界の中での評価でしかない。


社会の一部、一つの職業としてみた場合は決してその限りではない。


 そもそもレオンは現代日本という異世界から、このギフト偏重の世界へとやって来た人間である。彼からするといい仕事する人間、結果を出したものこそが優秀というのは当たり前の評価だ。

そして調合士としてのレオンからすると結果というのは品質のいい薬草であって、優秀なギフトをもっているだとか、なんとかというモンスターを倒したことがあるという自慢話もない。

だからホルストを優秀だと評価するし、その優秀だと思っていた人間が本人も含めて評価されないというのは納得がいかない。

ましてや将来自分が飛び込もうと思っている世界である。

そして自分もその物差しでは無能と評価されるであろうことは明白だ。

真っ当な評価がされていないということに憤りすら覚えたレオンは強い口調で口を開く。


「その評価はおかしいですよ。なんですかそのギフト偏重の脳筋評価システムは……ナターリエさん、ギルドの評価としても同様なんですか?」


「脳筋評価って……えっ、私も!?……いや……も、もちろんホルストさんみたいな方のことは評価してますよ。そのためにランクの他に等級ってシステムを作ったのですから。でもですね、やっぱり探索者の本分は迷宮探索ですし、上位迷宮に潜れる高ランクの探索者が評価されるのは当然です。そうなるとどうしても優秀なギフトを持っている方が有利になるので……」


 今まで子供らしからず礼儀正しかったレオンから突然飛び出た脳筋発現にかなり動揺したナターリエであるが、それでもギルドとしての見解をきちんと説明する。


 しかし何故かやたらと熱くなってしまったレオンは止まらない。


「いやいや、上位ランクの探索者を重視するのは当然ですし彼らを高く評価するのも分かります。確かに上位探索者はギルドの象徴、庶民にとっても憧れの存在ですし僕だって探索者になるのならそこを目指します。高価なレア素材なんかもギルドにもたらしてくれますしね。それに探索者は魔物から人類を守る大切な戦力としての役割もありますから強さを評価するのは大切だと思いますよ」


「そうなんです。だから……」


「でもそれはそれです。ここで問題なのはホルストさんが自分を三流と思っていることなんですよ。いいですか、この世界で探索者ギルドというのはとても地位が高く様々な特権を与えられています。それはこの探索者ギルドが社会にとってなくてはならない存在だからですよね?」


「は、はあ……その通りですよ。先ほどレオン君も言っていたようにいざという時の魔物に対する人類の戦力としてなくてはならないものですし、何より迷宮でしかとれない貴重な素材、資源を世の中に提供しているのが探索者ギルドですからね」


「そうです。戦力としても貴重ですが、唯一無二の存在として重宝されているのは迷宮でしか取れない素材や資源があるからです。そして世間の人々が必要としている素材というのは高位探索者取ってくるレア素材なんかではありません。まさにホルストさんがとって来てくれている薬草みたいな生活に欠かせないものです。つまりギルドにとってなくてはならない主力商品を、高品質で安定的に長期にわたって供給してくれているのがホルストさんなんですよ!そういう人が自分を三流と思って肩身の狭い思いをしていて組織として真っ当と言えますか?そこらでデカい態度とっている多少優れたギフトを持ってるだけの馬鹿な脳筋なんかよりもよっぽど貴重な人材ですよ」


「えっと……すみません?」


「…………」


「…………」


 変なスイッチが入ってしまい熱くなって一気に語ってしまったレオンであるが、困惑した様子で詫びを口にするナターリエと唖然とした様子で自分を見ているホルストを見てふと正気に戻る。


 そして自分がやらかしてしまったことに気付き、唐突に挙動不審になると赤面してナターリエに謝罪を口にする。


「す、すみません。別にナターリエさんが悪いわけじゃないないのに何もしていないこんな子供が偉そうなことを……本当にすみませんでした」


「いえ、おっっしゃっていたことは何も間違っていませんでしたから。それに……フフッ……レオン君て妙に大人びていていつも落ち着いていたけど、あんなに熱くなることもあるんだなってちょっと安心しましたよ。言ってることは全然子供っぽくなかったですけどね」


「ぐっ……本当にすみませんでした」

 

(俺の前世っていわゆる社畜ってやつだったのかなぁ……きっと今朝見た前世らしき変な夢のせいで社畜時代のトラウマがよみがえったに違いない)


 居心地の悪さから現実逃避して不毛な自己分析を続けるレオンなのであった。

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