霧の中
@ybt04
第1話崩壊1
7階建てのビルの屋上からは通天閣と動物園が見える。この屋上は6階の階段からしか上がれない。このビルに引越ししてきたのは7年前、夜逃げのようにトラックに椅子や机を乗せて夜中に運んできた。その頃はベンチャーの走りで私の勤めていた会社が新会社を興し、私は人数合わせのために役員にされた。社長はその会社の子飼いの社員で、程度成功が見えてきたら交代と考えているようだった。
予想の通り介護事業に出たこの会社は見事に半年赤字を続けた。それで社長夫婦喧嘩は絶えることなく、今月の給料が滞った。でもこの頃は私の上に専務がいて彼が実質の企画提案者だった。私は企画書を見て無理だと思った。だがその頃の私は大きな経済界の事件に巻き込まれ退職していて生活のためだけにこの会社を選んだのだ。
夜逃げはその専務と私とボランティアの男性と話し合い社長を巻き込んで決行したのだ。たまたまこのビルは社長の懇意先の競売物件で私が経験を活かして管理を受けたのだ。
雲がゆっくり流れる。私はこの景色が嫌いではない。だがここに引越しして会社を維持する自信はなかった。今まで経営者として考えてきたことがなかった。その頃は7割が空室でリホームもせず管理人として6階の元の持ち主の部屋に入った。今月給料払えるのか毎日夢を見た。
「またここですか?副社長が上場の説明に来ています」
6か月前から6階の大部屋で社員と机を並べていたのが、上場のために私の部屋が経理のいる7階に牢屋のような部屋に入ることになった。この6か月で仕事の現場が見えなくなった。7階建てのうち2階、5階、6階、7階を使うようになっている。
「どうだ資金繰りは?」
彼女は創立期の5年前に経理を任せ、今は経理部長として4人を部下に持っている。
「問題はないです」
昔はここに上がってきて2人でひそひそ資金繰りの打ち合わせをしてきた。ここに来て5年間は私と彼女で資金繰り会議をしてきたのだ。
6年前に辞任を申し出たのを受けて私が社長になった。その時もまだ会社の将来は見えなかった。行きがかり上だ。
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