第24話 乱戦パロの波止場にて
貴史とヤースミーンがヤヌス村の商品見本市会場を出ると、パロの波止場は多くの人でざわめいていた。
先に会場を出したララアとセーラは堂々とした雰囲気で横並びで波止場に停泊する新顔の帆船を目指して歩いている。
「まだ騒ぎになると決まったわけではありません。二人が自警団としてガイアレギオンの船に行動を自重するように注意し、先方も素直に話を聞いてくれればそれだけで済む話ですから」
ヤースミーンはこれ以上トラブルは起きてほしくない雰囲気でつぶやく。
「でも、さっき聞いた話では、ララアがガイアレギオンの連中を撃退してその船を乗っ取ろうとしたなんて言っていたから、彼らも相当に素行が悪いのではないかな」
貴史が答え、貴史とヤースミーンが見守る中で、ララアとセーラはボーディングブリッジを渡り、ガイアレギオン船の甲板に降り立っていた。
一見したところでは、平穏に話し合いが進んでいる様子だ。
「争いごとには発展しないみたいですね。心配し過ぎだったかしら」
ヤースミーンはホッとした様子だ。
「そうだね。僕たちが遭遇したのは他国に侵攻してきた戦闘部隊だったけど。平時に中立国の港に来た時は自ずとおとなしくするはずだよね」
何事もなく終わるのではないかと貴史が楽観し始めた時、ヤースミーンが身を固くして足を止めた。
「どうしたんだヤースミーン」
貴史が尋ねてもヤースミーンは答えないが、彼女の視線を追って貴史も絶句した。
そこには着飾った貴婦人と、それをエスコートする仮面の騎士の姿があった。
そして貴史はその仮面に見覚えがあったからだ。
「あの仮面の男」
「ハヌマーンですよ。シマダタカシが斬られたあと、クリストさんがその身を犠牲にして私達を逃してくれた恐ろしい敵」
貴史はハヌマーンに腹を切られて自分の腸が飛び出したのを目の当たりにしている。
クリストがハヌマーンを防いでいるうちにミッターマイヤーが瞬間移動の魔法を使って辛くも脱出し、貴史は息も絶え絶えの所をヤンの治療魔法で助けられたのだ。
「どうする?戦うのか?」
「ここは中立国の港町。相手から仕掛けて来ない限りは静観しましょう。ハヌマーンだって、私たちの宿に泊まった時は紳士的だったではありませんか」
ヤースミーンが事態を静観するつもりだと判ると、貴史は本音の所ではホッとしたのだった。
しかし、次の瞬間には港町のざわめきを切り裂くようにホイッスルの音が響いた。
「何事だ?」
貴史が音の方向を振り返ると、ララアとセーラが全速力で疾走しているのが見える。
ララアは既に剣を抜き腰だめに構えて走っており、セーラの両手にもダガーが握られている。
二人は、まっしぐらにハヌマーンと同行している貴婦人を目指して走っており、ララアのホイッスルに反応してそこかしこから自警団のメンバーらしき武装した男達も集まり始めていた。
「ララアがハヌマーンに気づいてしまったのですね。彼女が気づく前に雑踏に消えてくれればよかったのに」
「始まってしまったものは仕方がないよ。俺はララアを手伝いに行かなければ」
貴史は気が進まないものの、ララアやセーラが戦うのを傍観するわけにもいかなかった。
しかし、ララアたちに続いて駆け出して行こうとする貴史をヤースミーンが呼び止めた。
「待ってシマダタカシ。私が支援魔法をかけてあげます」
貴史がドラゴンハンティングで刃差しを務める時は、戦いの前にヤースミーンが支援魔法をかけるのが恒例となっている。
「たのむよ」
ヤースミーンは一心に祈り、呪文を唱え終えるとそのパワーを貴史に向かって開放する。
「今日は盾がないから、攻撃支援魔法だけです。切られないようにしてくださいね」
「わかった。行ってくるよ」
貴史が再び駆けだそうとした時、ヤースミーンはもう一度呼び止めた。
「シマダタカシ、死なないでください」
貴史はヤースミーンの声を聞いて立ち止まったが、片手をあげて見せただけで振り返らずに走り始めた。
ヤースミーンの振る舞いを見ていると、自分に死亡フラグが立っているような気がしたが、不吉な思いを振り払うように貴史は走る速度を上げた。
やがて、懸命に走る貴史の前で閃光が閃いた。
そして少し遅れて雷鳴が貴史の耳に届く。
貴史が目を凝らすと、ハヌマーンたちを取り囲もうとしていた自警団の男たちがなぎ倒されたように波止場の石畳に倒れている。
貴婦人が魔法攻撃で自警団を一掃したのだ。
「お前たちは私の友達だったクリストを殺した。その借りをここで返させてもらう」
「それは私のセリフだ。クリシュナの技を使いながらヒマリアに身を寄せるそなたが何者かじっくり聞かせてもらうぞ」
貴婦人の様相のムネモシュネはよく響く声でララアに応える。
「ララ先生そっちの魔法も使う女はあなたに任せるから、こっちの仮面の男は私にやらせて!」
セーラは獲物を分け合うようにララアに告げるが、それはハヌマーンのみみにもとどいていた。
「私のことを簡単にやれると思うとは舐められたものだな。その軽口を後悔させてやる」
遭遇した四人の強者ががそれぞれに勝手なことを言いながら武器を構えるのを見て、貴史は血が凍る思いだったが、助太刀に来て何もしないわけにはいかない。
「セーラさん手伝います」
貴史が叫ぶと、セーラは微笑を浮かべた。
「あらお兄さん、私を助けに来てくれるなんてうれしいわ。すぐに片付けるからその辺んで見物してくれてもいいわよ」
「ほざくな、この小娘が」
ハヌマーンは閃光のような斬撃を繰り出したがセーラは軽くかわすとハヌマーンの懐に飛び込んでダガーを横に薙ぐ。
ハヌマーンは斬撃で体勢を崩した状態から飛び退ってセーラのダガーの切っ先を交わした。
「入り込む隙がない」
貴史は戦いに参加すらできないままに、セーラとハヌマーんの動きを追っていた。
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