第23話 自警団出動
「シマダタカシ、君と一緒にいるのはララアではないかね」
貴史が聞きなれた声に振り返ると、タリーが料理を乗せた皿を、テーブルに乗せようとしており、その横には商工会長のジョセフィーヌの姿も見える。
「パロの街を見物していたら偶然再会できたのですよ。直接的にはこの子のおかげですけどね」
いきなり話を振られたソフィアは居心地悪そうに身をすくめたが、タリーは無頓着に話を続ける。
「偶然とは神が演出した必然でもあるのだ。丁度試作品が出来たから君達も食べたまえ」
ララアはテーブルに近寄ると料理を覗き込んだ
「久しぶりに魔物の料理がいただけますね」
「わしはどんな味か興味津々やな」
ペーターも仕事柄熱心に料理を眺めている。
皆がタリーが料理を並べた試食用のテーブルに皆が近づくと、商工会長のジョセフィーヌがセーラの存在に気づいた
「あら自警団の用心棒さんじゃない。こんなところに出没するなんてさすが仕事熱心と言われるだけあるわね」
「ジョセフィーヌさん視察旅行からお帰りになられたのですね。この料理は視察の成果品かしら」
セーラが当たり障りない返事をすると、ジョセフィーヌは美容を浮かべる。
「そんなところね。これからこの食材が定期的に入ってくるからペーターさんにもごひいきいただきたいわ」
「ま、まいど」
ペーターは、ドラゴンのベーコンを食べかけていたので目を白黒させながら答えた。
セーラとペーターはジョセフィーヌが苦手らしく、彼女が別の相手と話し始めると小声で言い争いを始めた
「ペーターさん私あの人苦手って言ってるでしょ。もっとちゃんと受け答えして彼女の注意を引き付けてよ」
「そんな殺生なこと言わんといてや。わし緑色しているから蛇に睨まれたかえるみたいなもんや」
ペーターの言葉にセーラはやっと笑顔を浮かべる。
「色は関係ないでしょ。いい加減にしなさいよ」
コソコソと話している二人だったが、トロールのペーターは結構目立つのでタリーが目を止めた。
そちらの方はパロの事業者かな、このドラゴンとクラーケンの料理はいかがですか。
「ドラゴンにクラーケン!?そんなものを食材にしようなんて凡人には思いもよらない発想や。遠慮なくいただきますよ」
タリーは、素材の味を確かめるためにシンプルな料理を選んだと思えた。
ドラゴンのベーコンをハムステーキ風に焼いたものや、カルボナーラ風のパスタ、そしてクラーケンの燻製をそのままスライスした物やフライが並ぶ。
「この料理美味い!あんさん只物やないな」
ペーターの賛辞にタリーは微笑を浮かべて一礼して見せるが、ヤースミーンはペーターに囁く。
「只物ではないからペーターさんも用心しないと姿焼きにされてディナーの主役にされるかもしれませんよ」
「あかん。わしを食べたかて美味しいことあらへんからな」
ペーターは慌てた様子で答えた。
集まった人々は、それぞれが好き勝手な話を始めて収拾がつかないが、雰囲気としては悪くない。
タリーは手ごたえを感じて満足そうにうなずいた。
何事もなく試食会が終わろうとしていた時、商工会のメンバーの男性が会場に飛び込んで来た。
男性はジョセフィーヌを見つけると、息を切らせながら報告する。
「ジョセフィーヌさん、大変です。さっき入港した大型帆船はガイアレギオンの連中が乗っているみたいです」
「何ですって、またあの連中が来たというの?以前来た時も勝手なことをしてさんざんトラブルを起こしたというのに今度は何をするつもりかしら」
ジョセフィーヌは表情を険しくし、ガイアレギオンの名を聞いて貴史達も緊張を高める。
つい先ごろまで、ガイアレギオンに進攻されて、勝ち目の少ない戦いを挑んでいたことが記憶に新しいからだ。
「私たちの出番かしら。最初は相手の出方を見るからララ先生はいきなり船ごと燃やしたりしては駄目よ」
せーらがさりげなくララアに囁くとララアはにやりと笑う。
「大丈夫ですよ。私は炎系よりも氷系の魔法の方が得意ですから。それに凍らせてしまえば後で船を分捕ることもできますからね」
セーラとララアは微妙に物騒なことを言いながら波止場に向かうそぶりを見せた。
ジョセフィーヌは二人の様子を見て満足そう二人に声を掛けた。
「用心棒の先生方、街の治安のためによろしくお願いしますね。何せ高い用心棒代を払っているのですから」
「当然ですよ仕事ですから」
セーラは硬い雰囲気でジョセフィーヌの言葉を受け流し、ララアは無邪気そうな表情で手を振って見せる。
ジョセフィーヌから少し離れたところで、セーラはララアに小声で言った。
「あの人は嫌味は言うけど、根は悪い人ではないから気にしなくていいのよ」
「セーラさんがパロの商店街で人気が高いから妬いているだけですよ。私は天真爛漫な少女キャラを演じているから無傷ですし」
セーラはララアの言葉を聞いて意外そうにララアに視線を向ける。
「なんだかあなたの方が一枚上手な気がしてきたわ」
「いえいえです」
ララアは温和な表情で答えた。
セーラとララアは並んで商品見本市の会場から波止場へと歩き始めた。
成り行きを見回っていたヤースミーンは貴史の服の裾を引っ張って貴史に耳打ちした。
シマダタカシ、折角再開できたのにララアがやられてしまってはいけないから、私達も様子を見に行きましょう。
ヤースミーンの言い分はもっともなのだが、貴史は相手がガイアレギオンだけに何となく気乗りがしない。
貴史は過去にガイアレギオンの指揮官であったガネーシャと戦い、みぞおちから背中まで剣で刺し貫かれたし、先ごろ侵攻してきたハヌマーンと剣を交えた時は腹を切られて内臓が飛び出るほどの傷を負わされていたからだ。
「セーラさんとララアを倒すような化け物がいたら俺なんか瞬殺されてしまうよ。でも、気になるから様子は見に行こう」
貴史がちょっと気弱な発言を漏らすと背後からヤンがフォローした。
「俺が付いているから安心してくれ。首を切られたり内臓が飛び出したとしてもその場で治癒魔法を使えたら何とか復活させてやるよ」
ヤンの言葉はあまり励ましになっていないが、それでも一緒にいてくれたら頼もしいのは確かだった。
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