Dirty Work2 愛し愛された者
「ふーん、まぁまぁな屋敷だな」
俺がいるのはそこそこいい感じの屋敷だ。なんでこんなところで、しかもそれなりの待遇を受けてるのかはちょっと前に遡る。
――二日前
いっつも通りなんにもこない!
仕事が!
流石に資金も尽きてきたぞ、どうする? このままだとマジでまたパンケーキ生活だ。
っと、朝刊を取りにいったらなにやら厚みのある封筒。これはもしや……
――――
「Killing」
クライス様、折り入ってお頼み申したい事がございます。つきましては記載の住所までお越し頂きたく。
前金はもう払っておきますゆえなんとかお願い致します……
――――
そんな文面と一緒に添えられていたのはなんとキャッシュで1000、こりゃ相当困ってんな。まあそこまでやるんだ。行ってやってもいいかぁ。ピザも食えそうだしな。
――今
「んで? 何したらいいんだ?」
「はい、実はご主人様に付きまとっているであろう妖魔を退治して頂きたく……」
「そうかい。んまぁ張り込ませてもらうわ」
使用人に案内された結構良い感じの部屋から辺りを見渡して妖魔の気配を探る。今んトコ特に何も無いが……
ん、僅かに妖魔の気配?
いや気のせいか。
夜、やはりなにか感じる。
あてがわれた自室から抜け出し、その妖魔らしきものの気配を辿っていく。
んで着いたのは中庭にある小さな墓標。
「何々? 『我が愛しき妻アンヌの鎮魂をここに願う』……コイツは」
「私の妻に何かご用ですかな?」
墓標に触れようとした瞬間、背後から声。
「うぉっと、アンタ確かこの屋敷の主人だったか。俺の後ろを取るなんざよくやるぜ」
「なーに、もう歳ですからな。半分気配も消えておるんでしょう」
とは、本人の言うところだがこのじいさん何かしらはやってたんだろうな、スキも少ねぇしそこはかとなく漏れる覇気の様なモンもある。
「アンタ、どうして俺なんかを指名した? 妖魔にビビる様な人間には思えんが」
「はは、どれだけ武芸を成そうとも勝てぬ恐怖というものはあるものでしてな。今回など特にそうだ」
話を聞くにはある日を境に毎夜毎夜うめき声の様なものが背後から響き、それが昼間にも出るようになってきたらしい。
除霊の類やら何やらも試したが全くダメだったそうだ。
「なぁ、どうしてそれを最初に言わなかったんだ?」
「一蹴される恐れがあったから、とでもいいましょうかな。貴方の様な仕事人には軽い依頼に見られてしまうかもしれぬ、と」
「1000もキャッシュで前金つけといたのはそれか……」
「そうなりますな。なんともお恥かしい」
「まぁいいぜ、俺は金が貰えりゃそれで構わんしな」
と、長話してる間に墓の方から妙な気配。
コイツは……間違いねぇ、妖魔のそれだ!
「じいさん伏せろ! 来るぞ!」
瞬間、察知する。ドデカイ妖気の塊。
墓標から溢れ出してやがる!
レクイエム装着、妖魔の出現に備える。
――アアアアアアアア……
妖魔のうめき声、それとともに爆風の様な妖気が俺らを襲う。
「チッ、なんつー風だ! じいさん、おいじいさん!?」
ふっ飛ばされてないかじいさんを確認すると直立不動のまま涙を流している。どこに泣く要素があるんだよ、ビビっちまったか?
「アンヌ、アンヌなのか……?」
「じいさん何言ってんだ!? こりゃただの妖気の塊だぜ?」
「いいや、感じる。これはアンヌの……」
クソッ、じいさん聞いてねえ。だが嘘言ってる訳でもなさそうだ。仕方ねぇな。
「レクイエムよ!」
剣を風に突き立てて気配を探る。より詳しい気配を、だ。
……これは!
「ふん、年の功には敵わないってか? いいぜ、やってやらあ!」
妖気の風を切り裂き、塊の本体へと切り進む。この塊の中にあるはずだ。
だが簡単には触れさせてもらえんらしい。
いくつもの妖気の触手が迫ってくる。
まぁ敵じゃねぇがな!
「はぁっ!」
まず妖気の外殻を削ぐ。それから……!
「いよっと!」
内部のコアを傷つけないように抉り出す!
「後は雑魚処理だな」
コアを失い、統率を無くした妖気の破片を一閃。
これで視界は晴れた。
――
「じいさん、これだぜ。アンタに付きまとってた奴の正体はさ」
「おお……」
俺の手に収まった小さなコア。それは酷く綺麗で僅かに輝いていた。
「アンヌ、そうかアンヌ、君だったのかい」
じいさんが語りかけるとコアは小さく震えた。そして……
『ごめんなさい。どうしても貴方に会いたくて。でもそれがダメだったみたい。貴方には迷惑をかけてしまったわ』
「迷惑だなんて……私こそもっと早くに気づいていれば……」
「感動の再会の時に悪いがな、そろそろ」
「ああ、分かっているとも。また話ができて嬉しかったよ、アンヌ」
『私こそ。じゃあ本当にさようなら……』
――キンッ
レクイエムで軽くコアを叩く。そうするとコアはサラリと消えてしまった。
「クライスさん、どうもありがとう……あのまま私が気づかずにいれば妻は。それに危険を承知で最後に話までさせてくれて」
「言うなよ。俺は仕事しただけだ。残るモンがあるとまた出てくるかもしれんからな」
そう。俺は仕事しただけだ。それ以上もそれ以下もない。
――数日後
手紙によればあの後じいさんに妖魔が付きまとうことはなく、今は平穏な日々を送ってるらしい。墓標も建て直して毎日毎日自分で掃除してるそうだ。元気なこった。
まぁ、俺にできた事はあれだけだし、これ以上関知する気も無い。
それよりピザだ。そろそろ着く筈なんだがな……
「クライスさーん、宅配ピザでーす」
「はいよー。ん? 一箱多いぜ? 俺が頼んだのは一枚なんだが」
「店長がサービスでもってけって言ってましたので!」
「そーかい。サンキューな」
テーブルについて箱を開けてみればサービス品は生ハムとバジルのピザだった。
「ふん。あの中庭の緑を思い出すぜ」
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