Dirty Work1 魅入られた娘

――ジリリリリリリン、ジリリリリリリン。

「『Killing or Not Killing』……今日は休みだ。またにしてくれ」

 ふん、最近はシケた依頼すらこない。これじゃあ飢えちまう。バイトにでも行くか……いや、こんな腕じゃ誰も雇っちゃくれねえもんな。

 仕方ねえ、パンケーキでも焼いて食うか。あーあ、ピザが食いてぇなぁ。


――ガチャ

「ん、なんだぁ? 『Killing or Not Killing』」

 店のドアが開いた。直接来店とは珍しい。今日はもう終いなんだが。

「頼む、助けてくれ! 『Killing』! これが符牒なんだろ!?」

「……まぁ座れよ。ドアの鍵は閉めてくれよな」

 仕事の話なら聞いてやる。とりあえず嵐でうるさい外の音はいれたくねぇ。


――

――――

「ふーん。娘が、ねぇ」

「そうなんだ、私の言うことなどまるで耳を貸さない様子で……あれは絶対に」

「決めつけんなよ、そのくらいの年頃ならよくあることだろ」

 やれやれ、この親父さんの娘はある男に首ったけでそれが「妖魔」のしわざかもしれないと話を持ってきやがった。

「お願いだ、前金も払うし受けてくれないか?」

「俺は高いぜ? 500は積んでもらわねぇとな」

 まぁホントに妖魔のしわざかは分からんが丁度金も無くなってきたところだ、受けといてもいいだろ。

「ぐ……いやこうするしか無いんだ。払うよ」

「決まりだな。あんたは先に帰っててくれ。俺は準備してから取り掛かるんでな」

 親父さんから家の住所と娘の写真を受け取り、前金で潤った懐から金を出して宅配ピザを注文。まずはピザ食ってから考える。


「は? 嵐で宅配は出来ないだと?」


 最悪だ。結局ディナーはパンケーキかよ。



――深夜

「ここらへんか」

 書いてあった住所通りの場所に着く。こんな時間だ、住宅街のここじゃあ人通りも少ない訳で。まぁ好都合ではあるがな。嵐も嘘のように止んでやがる。

 っと、張り込んでたら娘らしき人影発見。尾行するか。


「おいおい、コイツは……」

 この娘、ここいらじゃロクでもねぇ奴らの溜まり場に入って行きやがった。見かけによらねぇな。俺も入るか。

「ん? お前見たことない顔だな。新入りか?」

 入ってすぐ、チンピラ小僧に声をかけられる。全くコイツらに礼儀ってモンはないのか。口の聞き方がなってねぇ。

「まあそんなところだ。ところであの娘はなんだか知ってるか?」

「んー? あーあの子は最近のボスのお気に入りだよ」

「ボスか。なんなら取り次いでくれ。あの娘に用があってな」

「……いいぜ。ただし」


「「「俺らとケンカして勝てたらな!」」」


 はぁ、チンピラは所詮チンピラか。全く面倒くせぇ。

 んで言うが早いか囲まれた。古式ゆかしいボクシングでもやるつもりか?

 まずは一人目、大振りで殴ってきたのを躱して持ってきたキューケースで殴る。二人目、三人目も同様だ。

 次は蹴り技の奴、いや技って程もねぇな、これも足を引っ掴んで放り投げる。

 色々とやってくるがまぁどいつもこいつも遅い。最後は全員でメチャクチャに襲ってきたがキューケースを宙に投げて落ちてくるまでの間に全部片付いた。


「さあて、取り次いでもらおうか、クソガキ共。それともまだやるか?」

「いっ、今すぐ取り次ぎます! だからこれ以上は!」

 はーあ、腰抜けだな。自分らから吹っかけてきてこれだ。

 

 よし、とにかくボスに会うか。

 しかしどうも「妖魔」の気配がする。こりゃもしかすると……

「ふーん、あんた腕は立つみたいだな。この娘が欲しくて来たのか?」

「まぁそんなところだ」


「そうか、じゃあ俺を倒してみろよな!」


 そう言った瞬間ボスから変な気が溢れる。あーこれは……

「ふっはは! 『妖魔』の力だ。お前に勝てよう筈もない!」


「そうだな。だがこれならどうだ?」

 キューケースを開く。それには一振りの剣。それを見てボスは驚愕する。


「そ、それは!」


 一閃、奴が二の言葉を紡ぐ前に左腕に着けられた剣は奴を両断した。


「ぐ、ぐげ、頼む助けて……」

「この期に及んで命乞いか。えーそれは無理。そんな無茶なこと言うな。絶対に無理。無理無理無理……」


「てめぇのコアはぶった切ったからな。どうやっても消えるだけさ」


「あ、あ、あ、た、助け……」


 そんな呆気ない断末魔で奴は死んだ。いや消えた。

「退魔剣・レクイエム」それが俺の左腕に着けられる、妖魔をコアごと斬る刀身だけの半透明の剣だ。


――

――――


「娘さん、これが真実さ。あんたの気に入ってた男は妖魔だったって訳」

「あ、あ……」

「分かったんならさっさと帰んな。パパが心配してたぜ。送ってってやるよ」

 腰抜かした娘さん背負って帰路に着く。全く送迎サービスは仕事じゃねえんだがな。



――三日後

 あれから親父さんから連絡があって娘さんは元通りになったそうだ。まぁそんな事どうでもいい。俺は報酬さえもらえりゃそれでいいんだ。

――ピンポーン「クライスさーん、宅配ピザでーす」


 さ、今日はマジでピザ食うぞ。

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