2021/05/29

  2021/05/29


 得難き青春を取り落とした事実の追認とでも言うべきか。夢中に影を追うに当たり、状況は屡々学舎に置かれる。昨夜の夢は中々現状に照らしたタイムリーな其れだった為文字に起こそうと思う。夢日記は余り良くない習慣とされるらしいが、既に寝覚めの数舜は境界も朧気だ。


 人前で茶々くるのを是とする性分でもない。と言うのは飽くまで私の見立てに過ぎないが、まぁ大方間違いも有るまい。そんな彼が闊達さを表出させるのは何時も放課の事だ。下校の道中で、早くすれば昇降口で人目憚り乍纏わり付く彼のいじらしさは起床後の暫しを上がり放しの口角で過ごさせる程度に琴線を掻き乱して呉れる。


 昨夜の顛末にも大筋で差違は無い、後背から忍び寄った彼は腰に組み付く様に肌を寄せて来た。常と異なっていたのは、脇腹から滑らせた手で其の儘私の懐中を手探りに弄って居た事だ。


 何処を如何にか探って取り出したのか、或いは既に掌中に隠し持っていたのか。彼の細指につまみ上げられた其れは、私が出会って十年の記念に差し上げた筈の物だった。


 「…着けてないんだ?」

 不満を隠そうともしない。視線を凝らせば、彼の左手には既に生涯の道を同じうする表明が為されていた。些かばつの悪い展開だ。手渡された物をいそいそと薬指に嵌めて手を取り歩き出す…ちょっと待て



 「よくよく考えてみればお前この指輪と縁も所縁も無ぇじゃねぇか!」

 「起きて第一声がそれかい」

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